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第101話
「だが、私は陽向を引き取って養育することで、すっかり自分の責任を逃れたような気になってしまっていたんだ。
菱川との関係が明るみに出て逮捕され、有罪を言い渡されてなお、誰が告発したのだとそんなことばかり考えていて、私は真の意味では反省もしていなかった。まあ、そのことに気が付いたのはごく最近、征治が真実を知って訪ねてきたからなのだが」
勝君から話を聞いて、征治さんが慶田盛さんに確認しに行ったときのことだろう。
「征治が陽向の両親の死に私が関わっているのは本当かと問い詰めてきたときは驚いた。検察も証拠を見つけ出せずに起訴を断念していたし、報道もされた記憶がなかったからだ。
私は、今した説明に加えて、奴らが勝手にしたことで仕方がなかったのだ、まだ競争から降りるわけにはいかなかったのだと言い訳を並べた。
だが、征治に言われたんだ。陽向は両親を殺されていただけではなく、自分を置いて両親は自殺したと思わされていたんだ。どれほど傷ついたと思うのだと。
人間は自分や周りの人間の幸せを追求していく生き物なのだ、政治家は皆のその思いを実現するために働く代表だろうと。人の痛みがわからない私には政治家である資格が無かった、自分が政治家であったことを恥じろと言った。
そして、競争ならとうに負けている、風見君が殺されたことを知っていながら口を噤んだ時点で、人としての落伍者となったのだと言い放った。
今まで私にろくに反論すらしたことがない息子の言葉に心の蔵を射抜かれた気がしたが、まだ私は悪あがきをした。誰のおかげでお前は裕福に暮らし一流大学に入ることが出来たと思っているのだと罵った。
すると征治は私を憐れむような眼で見ながら、『結局社員も、家族も守れなかったじゃないか。告発したのは誰だと思う?勝なんだよ』と言った」
慶田盛さんはここで、長く大きな息をついた。
「その時、やっと目が覚めた。征治が帰った後も、『人としての落伍者』という言葉と、勝が告発したという事実、そして征治の憐れむような眼が頭から離れなくなった。
本来なら父親として子供に教えるべきことを何もしてこなかった私は、逆に息子たちから私に欠落しているものを突き付けられた。そこで初めて自分の生き方を振り返った。
生れついての金持ちが綺麗ごとを言っていると目の上のたん瘤のように思っていた松平の爺さんや、その爺さんの犬だと思っていた風見君の言わんとしていたことがやっと分かった気がした。
今まで後ろめたさから目を背け続けてきた君のことも、初めてその心情を思った」
そこまで言うと、それまで僕の正面でオットマンに腰を掛けていた慶田盛さんは、オットマンの横の床に膝をつき、頭を床にこすりつけるように土下座をした。
「陽向、君の両親の死は私に責任がある。私は君に恨まれて当然だ。恨んでも恨み切れないだろう。すまなかった。この通りだ」
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