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<第10章>   第104話

ダイレクトメールの間から、ビルの管理会社からのお知らせを引っ張り出し、カレンダーを睨んでいると、どうしたの?と吉沢さんが声を掛けてきた。 『実は、このビルの受水槽、大掛かりな修理をするらしくって。1日、悪ければ2日水が出なくなるそうなんです。だから、2日間だけ近場のビジネスホテルに泊まろうかなと思って』 今日も吉沢さんはうちにやって来ている。今まではこんなに頻繁に会っていなかったんだけどな。 「確かにこのビル、相当古いよね。7階でエレベータ無しって建築基準法に引っかかるんじゃないの?もう少しいいところに引っ越ししたらどう?」 『でもそのおかげで、破格の家賃ですから。それに、ここの見晴らしも気に入ってるんです』 「君は緑が好きだものね。風見君、その2日間、僕の家に泊まったらどうだい?わざわざビジネスホテルに泊まるの勿体ないじゃないか。普段は物置代わりだけど、友人や家族が来たとき泊める部屋もあるから」 寝室は別だとわざわざ仄めかしている印象もあるが、限りなくさり気ない雰囲気で吉沢さんは提案した。 治療に関わるなと言ったことや、小太郎の写真のことなど、このところの僕の言動が吉沢さんを傷つけているかも知れないと思っていた僕は、迷いながらもその申し出を受けた。 吉沢さんは僕との距離をもっと詰めたいと思っているに違いない。僕も、この人と生きていこうと思うならもっと寄り添っていかなければいけないのかも知れない。 当日は午前中に税理士事務所でアルバイト、その後夕方まであすなろ出版で打ち合わせをした。吉沢さんから仕事が終わったとメールが来たので、教えられた駅の改札で待っていた。 にこやかな表情で改札から出てきた吉沢さんは、手にぶら下げた包みを持ち上げ、 「職場近くの人気の寿司屋で持ち帰り用の握りを買ってきたよ。とてもリーズナブルだけど旨いんだ」 と説明した。 吉沢さんの部屋でお寿司とお酒をご馳走になりながら、吉沢さんの話を聞く。 普段から特に無口というわけではないけれど、今日の吉沢さんはとても饒舌で上機嫌で、それは日本酒のせいなのか僕が素直に泊まりに来たからなのか。僕も普段は飲みつけないお酒を勧められて少し酔ってしまった。

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