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第113話

『なんだか急に怖くなって部屋を飛び出してきてしまったんですけど、明日にでもどこか業者を探して部屋を見てもらおうと思います。それで、しばらく落ち着くまで、これを預かってもらえませんか?』 僕は家から持ってきた封筒を差し出す。 「これは?俺が預かるの?」 『これは僕が個人的に大切にしているもので、他人には何の価値もないものです。でも大事なものだから勝手に人に触られたくないんです。僕の家、金庫なんてないですし、部屋が安全だとわかるまで預かってもらえませんか?』 「わかった。陽向、業者にあてはある?ユニコルノでは定期的に業者に点検を頼んでいるんだ。新サービスの開発や技術部門なんかは情報漏れに神経を使うからね。俺が担当者だからよければ紹介するよ?」 それは有難かった。自分では電話で問い合わせることが出来ないので、ネット経由ですぐに信頼できる所を探すことが出来るのか不安だったのだ。お願いしたいと伝えると、 「じゃあ、住所を教えてくれる?ESセキュリティーっていう会社なんだけど、なるべく早く行ってもらえるように頼んでみるから。えっと、連絡はどうしよう?」 そこでハタと困る。住所は・・・すぐ近くに住んでいることがバレてしまう。 連絡方法も先日フリーアドレスは消してしまったし、また新たに取得したとして、征治さんとのやり取りを吉沢さんにまた覗かれたりしたら・・・ 悩み始めた僕の様子を見ていた征治さんはこう言った。 「ねえ、陽向。吉沢さんはこのこと知っているの?」 その名前にぎくりとする。その反応をNOととったのだろう。 「彼にも話して相談した方がよくない?彼なら全力で陽向を守ろうとしてくれるだろう?」 その吉沢さんを僕は少し怖いと思い始めているんだ。 「自宅の安全が確認できるまで、吉沢さんの家に身を寄せて、業者のチェック作業も彼に立ち会ってもらったら?」 たたみかける征治さんの両腕を掴んで、駄目だと必死で首を横に振る。征治さんは「っ」と小さく呻いて顔を赤くし、少し体を引いた。 そうだ、征治さんと吉沢さんは連絡手段を持ってるんだ。口止めしないと!僕は忙しくキーボードを叩く。 『吉沢さんには絶対に連絡しないでください!お願いです!』 画面を見た征治さんは怪訝な顔をして僕を見た。 「えっと、君たちは・・・その、パートナーなんじゃないの?」 僕は愕然とする。 征治さんは僕と吉沢さんの関係をそう思っていたんだ。だからこその、さっきの提案だったわけだ。もしかしたら吉沢さんが何か言ったのかもしれない。 でも・・・僕はまだパートナーという自覚があるわけじゃなく・・・でもこれからそうなっていくように努力しようとしてたわけだから・・・同じことなのかな・・・。 だとしたら、夜中にここへやって来てしまった僕のことを、征治さんはどう思っているだろう。なんだか恥ずかしいような情けないような気持ちになって、文字を打ち込む。

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