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第118話

吉沢さんはツインの部屋を取っていた。小ぶりなテーブルとチェアのセットがあり、吉沢さんは僕のその一つを勧め、備え付けのミニバーからワインのミニボトルを取り出した。 「風見君も飲まない?」 今日は酔っぱらう訳にはいかないので、要らないと示す。食事の時も吉沢さんの不興をかうかと思ったがアルコールには付き合わず、水で乾杯したのだ。 吉沢さんはワイングラスに白ワインを注いで向かいの席に座った。 しばらく手元で揺らしているグラスを見つめた後、思い切ったように顔をあげた。 「風見君。君の上司の酒田さんの紹介で僕と君が知り合って、もうすぐ丸七年になるね。 初めて会った時から君は僕に強烈な印象を与えたよ。年齢の割にまだ幼さが残る外見に反して、年齢以上の愁いを帯びた瞳がなんともアンバランスで・・・ ただ口がきけないということだけじゃなく、喜怒哀楽を全く表さず、他人になんの興味を示さない君は、一人で別次元に生きているようにさえ見えた。 最初の頃は他の人同様、僕にもなかなか心を開いてくれなかったよね」 そうだった。工場長さんの知り合いの青年が「友達になろう」と言ってきたときには、意味が分からず、かと言って僕のことを色々気遣ってくれる工場長さんの手前、無下にもできず、やたらと散歩に誘ってくる青年にただついて行くだけだった。 「そんな君を見続けるうちに僅かな表情の変化が読み取れるようになって、君が風や空や緑を感じて心の中にはちゃんと動きがあるとわかった時には、とても嬉しかったのを覚えているよ。 君が次第に、書いた言葉で考えていることを教えてくれるようになって、硬い殻の内側は本当はとっても純粋な青年なんだって分かった。 君が僕の勧めを聞き入れてネットで文章を書き始めて、次第に人気クリエイターになって・・・あすなろ出版に認められて本物の小説家になって・・・僕は少しずつ前進する君とずっと二人三脚をしているような気がしていたよ。 時には笑顔も見せてくれるようになって、僕に親しみを感じてくれているのかなって、変化を続ける君からますます目が離せなくなった」 ここで、吉沢さんは一口ワインを飲んだ。そして、少し躊躇いを見せた後続けた。 「風見君、僕は・・・僕の恋愛対象は男性なんだ。女性は全く受け付けない。君は、そういう人間のこと、どう思う?やっぱり気持ち悪い?」 以前から薄々感づいていたし、驚きは無い。僕は首を横に振る。

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