119 / 276
第119話
一瞬ホッとした表情をした吉沢さんは、今度は僕の目を覗き込みながら訊いた。
「風見君は?君の恋愛対象は?」
普通、こんな訊き方をするだろうか?
世の中、大多数の男が好きなのは女性だろう。これまで吉沢さんとこういった方面の話をしたことはないけれど、彼は僕に何か感じるところがあるのだろうか。
だけど、改めて恋愛対象はどっちだと訊かれて、僕は戸惑った。
僕は今まで征治さんのことしか好きになったことがない。でもそれは征治さんが男性だったからではなく、征治さんだったからだと思う。
慶田盛の家を飛び出してから、色々と嫌な体験をしたせいで、性的な意味では男性には嫌悪感があると言った方がいい。
『わかりません』
正直にそう書いた。案の定、吉沢さんは怪訝な顔をして、それでは納得していない感じだったので、言葉を書き加える。
『たぶん、僕はどちらにも興味がありません』
吉沢さんは目を見開く。そして考え込んだ。
「そうか、そうなのか・・・それは単に淡白なのではなくて興味を持てない・・・?それとも、どちらもそういう対象となると嫌悪感が湧くということ?」
僕は首を傾げる。平たく言えば、今まで征治さんだけが特別で、それ以外は全部丸太と一緒だったという感じなのだが、それをここで説明するのは憚られるし、しても仕方がない。
なぜ、吉沢さんがこんなことを聞くのか。それを考える。
吉沢さんは先日泊まりに行った時の僕の反応を見て、少なくとも男性を生理的に受け付けられないタイプではないとの感触を得たのではないだろうか。でも確信も持てず、だからこうして確認をして、僕に告白をしようとしているのだと思う。こういった同性への恋情は相手に伝えるのがとても勇気がいるだろうから。
では、僕の取るべき態度は?
『僕は心も体も壊れていて、正直あんまり考えたことが無かったという感じです』
本当は壊れた原因については大いに心当たりがある。でも、それにはあまり触れられたくなかった。
「じゃあ・・・もし・・・」
ずい分、迷いを見せたあと、吉沢さんは意を決したように顔を上げ、僕を見た。
「風見君。僕は君の友人として、時には兄として君を見守っていくつもりだった。君がそういう風に僕を見て、信頼してくれているのが分かっていたから。
だけど、僕は愛してしまったんだ、君のことを。もうどうしようもないくらいに。寝ても覚めても君のことばかり考えてしまうほどに。
もう僕はこの気持ちを自分の中だけに留めておくのは無理なんだ。
風見君。僕のこの想いを受け取ってもらえないだろうか?これからずっと僕に君を愛させてもらえないだろうか?」
普段の吉沢さんからは想像もできないような情熱的な台詞で口説き、パソコンに添えていた僕の手をギュッと握ってきた。
見返した眼鏡の奥の瞳は真剣で、単に僕を抱きたくてこんなことを言っているのではないと分かる。
ともだちにシェアしよう!