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第121話

「僕はやってはならないことをしてしまった。でも、もう二度とこんなことはしない。だから、どうか許してほしい」 そう言うと、僕の膝に手を置いてその上に額を付けた。 「ごめん。本当にごめん。許して欲しい。僕には君が必要なんだ。お願いだ、僕から離れていかないでくれ」 僕よりずっと大人で、この人の後ろを歩いていれば安心だと思っていた吉沢さんが僕の膝に縋り付き、震える声で許しを請う姿に、僕は少なからず動揺した。 そして、僕のことを必要だという言葉が胸に響いた。 欠陥だらけでなんにも持っていない僕。 あるのはとても人に話せないような惨めな過去だけ。 僕なんかのことを必要だと思ってくれる人は、きっと世界中にこの人しかいないんじゃないだろうか。 『もうしないって約束してもらえますか?』 「絶対にしないと誓うよ」 吉沢さんの表情に、声に、必死な様が滲んでいる。 吉沢さんにあんなことをさせてしまったのは僕なのかもしれない。僕が吉沢さんの気持ちを知りながら、頑なに征治さんに関することを触れさせないで、不安にさせてしまったんだ。 ずっと僕を導いてきてくれたこの人をもう一度信じてあげたい。そして僕も信じたい。 僕の膝にしがみついている吉沢さんの手を取って立つように促し、僕も一緒に立ち上がる。 『僕に恋ができるかわからないですけど、このまんまの僕でいいなら、一緒に生きていくパートナーにはなれるかもしれません』 「・・・松平さんは・・・?」 『あの人とはそんなんじゃないです。もう会うこともないです』 自分で文字を打ち込みながら、胸がキリリと痛んだ。でも、本当にもう何もないのだ。僕と征治さんの間には。 画面を見た吉沢さんに安堵の表情が広がる。そして、遠慮がちに聞いた。 「抱きしめてもいい?」 頷く僕を、両腕で抱きしめ、少し湿っぽい口調になりながら言った。 「風見君、許してくれてありがとう。僕の気持ちを分かってくれてありがとう」 その言葉を聞きながら、僕は、ああ吉沢さんの匂いは征治さんの匂いとは全然違うんだなと考えていた。

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