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第123話
山瀬さんが社内で談笑するオフショット風の写真。奥の方でピントがボケているけど、スーツ姿の半身が写っているのは征治さんだ!顔も横半分どころか三分の一しか映っていないけど、これは絶対に征治さんだ!
胸に何かがこみ上げてきて、思わず写真の征治さんを指でなぞる。
会いたい。征治さんに会いたい。
今まで考えないように努力してきたのに、突然その言葉が浮かんできてしまった。
駄目だ。そんなこと出来るはずない。きっと征治さんに呆れられる。吉沢さんも心配する。だけど、会いたい・・・。
切ない気持ちになってまた征治さんの写真を撫でる。
こんなピンぼけの半身じゃなくって、会っているときにスマホで写真を撮ればよかった。それも征治さんだけのと僕と二人で写ってるのと両方。征治さんの前ではもうマスクをしなくても大丈夫だろうし。
欲しかったな、写真。きっと征治さんは少し困ったような顔をして駄目だって言っただろうけど。
でも、なんで駄目なんだろう?
僕が征治さんの事ばかり振り返って、前に進めないって関係ないと言えば関係ない。引きこもりをやめて、ちゃんと仕事もして、治療を真面目に受けていればいいんじゃないか?
そこで浮かんでくるのは吉沢さんの事。征治さんは僕と吉沢さんがパートナーだと思っていて、ストーカー騒ぎの時も問題を解決してヨリを戻せと僕の背中を押した。
征治さんは、僕の幸せは吉沢さんと共にあることだと思っているのかな。
チリッと胸が痛む。
征治さんだってきっと恋人がいるんだろうな。あんなに優しくて素敵な人を周りが放っておくはずがない。どんな人なんだろう。
あの立派な家屋敷が無くなっても、征治さんは松平の血を継ぐ王子様なわけだし、どこかのお嬢様なのかな。それとも、征治さんに見合った才媛かもしれない。
今は恋人でも、僕より二つ上の征治さんはとっくに結婚を考える年齢かもしれない。もうすぐ結婚しちゃったりするのかな。そこまで考えて、ハッとする。
もしかしたら僕の存在は征治さんの汚点になるかもしれない。結婚相手やその家族に、いくらままごとのような恋だったとしても、かつて同性の恋人がいたなんて知られたら大変なんじゃ・・・。
それに僕の人には言えないような黒い過去。
やっぱりもう僕は征治さんの傍にいるべきじゃないんだ。
また胸がきゅううと痛む。
でも・・・あと、一度だけ。一度だけ会うチャンスがある。
僕は、あの大切なものを詰めた封筒を征治さんに預けたままなのだ。吉沢さんは二度と机を漁るようなことはしないと言ってくれたけど、僕は未だあの封筒を手元に置く気になれないでいる。
結局、僕は雑誌を処分することができず、机の鍵付きの引き出しにしまった。
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