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第124話
図書館を出て、あれ?もうこんなに暗いと驚いた。
まだまだ暑い日もあるけれど、もう10月だもんな。日が短くなっているんだ。
噴水広場を突っ切りながら、ここで征治さんに偶然会ったのは確か4月と思い出す。呼び出されて東屋へ行ったのは梅雨の6月。ストーカー騒ぎで最後に会ったのは8月。
大人になってから会ったのは全部で8回。そのすべてを詳細まで覚えている。その日がどんな天気だったのか、征治さんがどんな服を着ていたのか。征治さんがどんなことを言ったのか、どんな表情をしたのか。
一つも忘れたくないから時々脳内にそれらを再現して確認する。
吉沢さんには当然内緒だけど、僕は休日に家の窓からこの噴水広場を眺めるのをやめられずにいる。でも一度も征治さんの姿を見つけることは出来なくて、いつも公園に帳が下りて人がいなくなるころ、ひとりで溜息をつく。
家に帰りメールのチェックをすると、吉沢さんからの着信があった。今度の土曜日に家に来て欲しい、よければ泊まっていってという内容に、とうとう来たと思った。
吉沢さんは先に進みたいのだ。
いよいよ吉沢さんに、僕の秘密を話さなければいけなくなるかもしれないと思うと少し憂鬱だけど、一緒に生きていくならきっと避けては通れないことだろう。
僕は「お邪魔します」と返信をした。
土曜日、吉沢さんはいつもに増して機嫌が良かった。
吉沢さんは普段から半分自炊と言っていたけど、今日は僕をもてなすために張り切って料理をしてくれたようだ。
「風見君がまだ夏バテから回復してなくてあまり食欲が出ないって言っていたから、口当たりはいいけど栄養満点のスープを作ってみたよ。君がこれ以上痩せちゃったらいけないからね」
そう言ってにっこり笑うと、僕の頬を優しく撫でる。そういえば、以前食欲がないのを夏バテのせいだと誤魔化したのだった。
他にもハーブか何かを使ったらしいチキンのソテーやらアボカドやエビやオリーブが乗っかったサラダにワインまで用意してある。
本当は吉沢さんはずっと前からこんな風に恋人ごっこをしたかったのかな。それをずっと我慢していたのかな。
そこまで考えて罪悪感のようなものを感じた。違う、吉沢さんにとってこれは「ごっこ」なんかじゃないんだ。無意識だったとしても僕は・・・酷い奴だ。
その後ろめたさを拭うように、僕は吉沢さんに勧められるままに沢山食べた。そうすることで、吉沢さんがとても嬉しそうにしてくれるから。
交代でお風呂に入って、テレビを見ながらソファーで夕飯の時に飲み切れなかったワインとビールを飲む。多分今夜は二人とも少しアルコールの力を借りた方がいいのだと思う。
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