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第125話
かなり弱い僕よりはずっとお酒に強い吉沢さんの頬にも少し赤みが差してきたころ、吉沢さんがしみじみと言った。
「ああ、嬉しいなあ。君がこうやって僕と過ごしてくれるなんて。
僕が自分の性癖に気が付いたのは中学生の後半だったかなあ。それから何人か好きな人が出来たけど、一度も思いが通じたことはなかったよ。
高校の時はクラスメートを好きになっちゃって、ひょんなことからそれを相手に知られちゃって・・・気持ち悪いからこれからは3メートル以内に近づくなって言われたときはショックだったなあ。
実家のあの辺りはすごい田舎だっただろう?LGBTに対する理解もないし娯楽がないから噂話が皆大好きだし、とにかくゲイであることがばれないように息を殺していなくちゃならなかった。絶対に東京の大学に受かって、僕のことを分かってくれる人を探すんだって思っていたよ。
だけど、東京に来たって、同じ性癖の人に沢山会って、おかしいのは自分だけじゃないって救われはしたけど、恋愛はうまくいかなかったなあ。なぜかいつもストレートの男性ばっかり好きになってしまうから・・・」
吉沢さんが僕の手を取り、頬ずりをする。そして指先にキスをしながら言った。
「だから、本当に夢のようだよ。今までで一番好きになった相手が僕の気持ちを分かった上でこうして傍にいてくれるのは」
吉沢さんはうっとりした表情で僕の頬を撫で、髪に指を絡ませる。
ゆっくり顔が近づいてきて唇が重ねられた。そのうち生暖かい舌がずるりと口内に入ってきた。
大丈夫、怖くない。これは僕のことを大事にしてくれる吉沢さんだ。あいつらじゃない。
しばらく吉沢さんの舌が僕の中で動き回り、今度は手が首筋や胸のあたりを撫でさすり始めた。
ようやく唇を離した吉沢さんは僕を抱きしめながら、耳元で言った。
「今夜はもう少し、君に触れたい。いいかな?」
僕は頷いた後で、トントンと指で背中を叩いて文字を打ちたいと合図をした。
『うまくできないかも知れません。だけど、それは僕の体に欠陥があるせいだから気にしないで』
読んだ吉沢さんは少し怪訝な顔をして首を傾げた。でもすぐに気を取り直したようにもう一度キスをすると、僕の手を引いてベッドルームへ促した。
少し迷った挙句、僕はパソコンを手に取った。そんなもの要るのか?という吉沢さんの表情も尤もだと思うが、この後これが必要になる予感が僕には十分にあったのだ。
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