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第127話

体を起こした吉沢さんが、それを見ようと僕の左脇腹を覗き込むが、半分背中に位置するそれが良く見えなかったらしく、僕の体をうつ伏せに裏返した。 そこにある傷跡にそっと触れながら訊ねた。 「これは?どうしたの?」 ベッドサイドに置いたパソコンに手が届かない僕は、シーツの上に大きく『けが』と書いた。 「怪我?・・・僕は以前に患者さんの体にこういう傷を見たことがある。これは・・・もしかすると刺されたんじゃないの?」 こうもいきなり的確に指摘されるとは思わなかった。 どうしよう、用意していた言い訳が使えなくなり、だんまりを決め込もうかと考えていると、僕の表情を窺おうと吉沢さんが背後から顔を近づけてきた。 そして、息を飲んだのがわかった。 アレも見たんだ。 「・・・えす?」 ソレを顔を近づけて見た後、硬い声で言った。 「これは・・・君の趣味・・・とは思えないな・・・」 若気の至りでやったんですと嘘をついた方がいいのか。でも結局嘘だとばれそうな気がする。 僕は上体を起こしてパソコンを手元に引き寄せた。 僕が説明する気だと分かったのだろう。傷痕を撫でながら問う。 「これは誰かに刺されたんだよね?誰に刺されたの?しかも背後から。それにこれ、ちゃんとした病院で処置してもらった?」 『刺した相手は知らない人です。勘違いでトラブルに巻き込まれて』 これは本当だけど吉沢さんの表情は硬く、疑っているようだ。 「じゃあ、その刺青?タトゥーは?自分で入れたの?」 訊かれると思っていたから前もって考えていたはずなのに、どう説明しようかやはり迷ってしまう。 「もしかして、誰かに強要されたの?」 いつもよりワントーン低い吉沢さんの声に、トゲがある。 なぜそんなに怒っているのだろう? タトゥーを入れるような人間は理解しがたくて、受け入れられないのか? 「あの男が・・・松平さんが君にこんなことをさせたの? Sってあの人の名前じゃ・・・」 怒りに声を震わせる吉沢さんの台詞に驚いて、僕は跳ね起きた。

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