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第133話
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「風見君?」
頬に触れられて初めて、名前を呼ばれていたことに気が付いた。
「どうしたの?悩み事?ずい分考え込んでいたようだけど」
何でもないというように首を振る。
「悩みがあるなら、ちゃんと僕に話してよ?」
『大丈夫です。吉沢さんの転勤はいつ頃になるのかなと思って。税理士事務所の方へは辞めることを言っておかないといけないですし、心療内科と音声外来の先生にも紹介状を書いてもらわないといけないですよね?』
嘘をついてしまった。
本当は征治さんのことを考えていた。
「ごめんね、まだはっきりわからないんだ。風見君を振り回してしまって悪いね。でも、君が一緒に福岡へ行くと言ってくれて本当に嬉しいよ」
そう言って優しく抱きしめ唇を重ねてくるので、僕はゆっくり目を閉じる。吉沢さんの舌が侵入してきて僕の口内を動き回り、手が首筋や背中を撫でまわすけれど、やっぱり何も感じない。
でも、恐怖も嫌悪感も湧いてこないのだから上等だといつものように自分に言い聞かせる。きっと慣れればもうちょっとなんとかなるんだ。きっと。たぶん。
だから、また僕の体が反応しないからって落胆しないで欲しい。
僕の手を引きベッドに連れて行った吉沢さんは、シャツを脱がせるとゆっくり僕を押し倒した。
僕の上に体を重ねてきた吉沢さんは上半身を腕で支え、僕の顔を熱のこもった目で見つめる。指先で僕の顔の輪郭をゆっくりなぞり、頬を撫で、唇に触れる。
その時僕はあれ?と思った。とても優しい表情をしているけど、どこかやつれたような印象を受けたのだ。
髪に指を絡め「くせ毛がかわいいね」と囁いたあと、僕の上半身に無数のキスをした。
それから僕をギュッと抱きしめ、耳元で「風見君、好きだよ。本当に好きだよ」と呟いた後、体を起こした吉沢さんは脱がせたシャツをもう一度僕に着せ始めた。
ん?意外な行動にキョトンとしていると、「眠るまで抱きしめてていい?」と聞く。よくわからないまま頷くと僕を横向きに寝かせ、後ろから抱きかかえるような格好で横になった。
今日は早々に諦めたのかな?そうだよね、人形みたいな僕を相手にするのがばかばかしくなって当然だ。
僕のものが反応をしなくても、もうちょっと盛り上がってる風にした方がいいのかな?でも、それって嘘だし、なによりそんな演技、僕には高度すぎて出来る気がしない。
でも僕の体の欠陥のせいで吉沢さんを傷付け続けているのだとしたら・・・今まで必要もないしどうでもいいと思っていたけど、何か治療的なものを受けた方がいいのだろうか。
一度、「心療内科の先生にはこのこと話しているの?」と聞かれた。僕は声が出ないことで診てもらっているつもりだし、これは声が出なくなったよりもずっと後にそうなったから無関係だと思って、誰にも相談はしたことがなかった。
本当は吉沢さんも治して欲しいと望んでいるけど、僕を傷付けないよう言わないでいるのかもしれない。
そんなことをグルグル考えているうちに、いつの間にか眠ってしまっていた。
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