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第134話
ふと目を覚ますと、背後に感じていた吉沢さんの体温がなかった。寝返りを打って体の向きをかえたが、やっぱりそこには吉沢さんの姿はない。
トイレにでも行ったのかと思ったが、随分経っても戻ってこないのを変だなと思った時、かつての恐ろしい映像が蘇った。がばと起き上がりベッドサイドを確認すると、ちゃんとそこには僕のスマホがあり、ほっとする。
今度は少し心配になってそっとベッドを抜け出した。廊下に出るとすぐ傍のリビングの扉のガラスのスリットから少し明かりが漏れている。扉の前に立ち、そのスリットから中を覗くと、ソファーに座る吉沢さんが見えた。
テーブルにはウイスキーのボトルと水割りが入っているらしいタンブラー。吉沢さんは両手で顔を覆って、俯いている。
僕は小さくドアをノックした。吉沢さんが顔を上げたが、目が赤い気がする。かなり飲んだのだろうか?
僕はリビングに入り、どうしたの?と首を傾げて見せた。
「ああ、ごめんね。起こしちゃった?何だか目が冴えちゃってね」
笑って見せる吉沢さんの笑顔がぎこちない。
テーブルに『なやみごと?』と指で書いて見せると少し困ったような顔をして首を振った。
「大丈夫だよ。異動のあれこれでちょっとね」
違うと思った。だからまたテーブルに書く。
『ぼくのせい?』
「全然違うよ」
かぶりを振った吉沢さんは僕の手を取り、自分の口元に寄せ、甲にキスをした。その様子を見ながら、やっぱりさっきやつれてると思ったのは間違いではなかったと思った。横顔に疲れが見える気がする。
「寝酒も呷ったし、ベッドに戻ろうか」
おやすみと言って今度は並んで横になった吉沢さんが、その後もなかなか寝付けずにいるのが分かった。
どうしたのだろう。本当に僕のせいじゃないのかな?それとも、今度の転勤は、本当は彼の意に沿わないものだったりするのだろうか?僕に何かしてあげられることはあるのかな。そんなことを考えながら明け方まで浅い眠りの淵を漂っていた。
次の土曜日、「仕事が終わったら君の部屋に寄ってもいいかな」とメールが届いた。OKの返事をしなから、珍しいなと思った。
吉沢さんは基本的に土曜日は13時まで仕事で、そこから日曜日までの週末の休みに入る。
僕たちがパートナーという間柄になってからは、いつも木曜までには吉沢さんからどちらの家で会うかなど、週末の過ごし方の提案と確認が送られてきていたが、今週は連絡が無かったのだ。
異動がらみで忙しいのかな?金曜までに連絡が来なかったので、会うのは日曜日になりそうだと思っていたのだ。
お昼は食べてくるだろうか?料理のできない僕は一応デリバリーのチラシを何枚か用意して、仕事をしながら到着を待った。
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