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第141話
人間って不思議な生き物だよな。
僕たちの行動は思考によってコントロールされている。
そしてその思考のせいで矛盾だらけの中で生きている。
例えば自己顕示欲のあまりないはずの僕がものを書くのは、すでに矛盾している。誰にも構われずにひっそりと生きたいと思いながらも、僕が書いたものを読んで誰かが元気が出たと言ってくれたらとても嬉しいのだから。
本能に従って生きる動物には得られなかった人ならではの喜びも多々あるだろうが、知らなくて済んだ悩みに振り回されもする。
矛盾。葛藤。体面、嫉妬、失望・・・。
本当は征治さんに会いたい。あの目が見たい。声が聞きたい。
だけど、僕はそれを行動に移せずにいる。
それは征治さんの望む形ではないとわかっているから、がっかりされるのが怖い?
もし、会いに行って「何をしに来たの?」と言われたら自分が傷つきそうだから?
それとも、まだ吉沢さんになんとなく申し訳が無くて?
こんな風に思考にがんじがらめにされて、単純に会いたいから会いに行くという行動が取れずにいる。
ふと小太郎のことを思い出した。
征治さんが学校から帰って来た気配を感じると、何をしていても放り出して、門までまっしぐらに走っていったコタ。
征治さんが大好きだから、嬉しくてその元へ走る。僕もそんな風に出来ればいいのに。
でも違う、と思った。
コタは勝君に金属バットで襲われて、きっと本能的に命の危険を感じたはずだ。本来なら一目散に危険から遠ざかるはずなのに、コタはそうしなかった。
仲間だと思っていた僕を見捨てられなかったのだとしたら、犬にもちゃんと思考があるんだな。そして、自分の死の恐怖を前にしても、それをねじ伏せて留まったんだ。
コタは勇敢だった。それに比べて、今の僕の情けなさ。このままじゃ、コタにまでがっかりされちゃうよな。
少し背筋が伸びた気がした。勇敢なコタに少し勇気を分けてもらおう。
ずっと気になっている、預けたままになっている物もある。
コタの首輪と写真はずっと僕のお守りがわりだった。あれが無いことが僕を落ち着かなくさせているのかもしれない。
征治さんに会いに行こう。
やっと僕は、そう決心をした。
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