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第147話

どれぐらい505号室のドアの前で立ち尽くしていたのだろう。何人目かのマンション居住者の不審な目を受けて、僕はのろのろと足を引きずり、エレベーターに向かった。 僕は、はっきりと拒絶された。 「さよなら」と言われたのだ。 深く激しい悲しみが津波の様に僕を襲う。 そんなに僕は疎まれていた?嫌われていた? 風見陽向として再会してからの優しい征治さんは、嘘だったの? どこをどう歩いたのか、気が付けば家の近くの公園まで戻ってきていた。 とぼとぼと真ん中の噴水広場に向かう。 周りのベンチにはこの寒さの中、二組ほどのカップルが抱き合うように寄り添って、ライトアップされた噴水を見つめている。なるべく彼らから離れたベンチにぺたんと腰をおろし、ぼんやりと噴水を見やった。 やがて、ピタリと噴水が止まった。10時になったのだ。二組のカップルは立ち上がり去っていった。 急に水音がなくなり、ライトアップの明かりも落とされ、あたりは静けさに覆われる。時折、電車の音と離れたところにある幹線道路から車の音が遠く聞こえるばかりだ。 僕のささやかな望みは叶わなかった。 僕はそんなに分不相応なことを望んでしまったのだろうか。 胸にぽっかり穴があくとは、正に的確な表現だな。僕の胸に開いた底のない真っ暗な穴が自分で見えるようだ。 そして、僕はこの感覚を既に知っている。 コタと征治さんを失ったあの日とおんなじだ。またあの時と同じ様に苦しい日々が始まるのか。 ただ一人、ひっそりと征治さんを想い続けるだけでいいと考えていたはずだけれど、先程の拒絶は酷くこたえた。 僕は前世で何かよほど悪いことでもしたのかな。 それとも、僕は気付かないうちに征治さんを不快にさせるような事をしていたんだろうか? 今日の征治さんはなんだか僕の知らない人みたいだった。女性なら見惚れてしまいそうな綺麗な笑顔をしながら、周りには分厚く冷たい透明のバリアが張り巡らされているようだった。 だけど、僕はやっぱり今まで8回会った時の征治さんの優しさが、嘘や演技だったとは思えない。優しく僕を見る目、僕を励ますように背中を撫でてくれた温かい手。あれは偽物なんかじゃなかった。 それは僕がそう思いたいだけなのだろうか。 だけど・・・ 脳裏に焼き付いている、最後に征治さんが見せた苦悩の表情。 あの辛そうな顔の意味するところは何? 征治さんは何が苦しいの? その時突然、雷に打たれたように衝撃がビリリと走った。

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