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第152話
都心のホテルのレストランで取引先の接待を終え、客をタクシーに乗せて帰し、次に山瀬を乗せる。
「征治も乗っていけばいいだろ?」
「目と鼻の先に地下鉄の入り口が見えてますから。お疲れさまでした」
ドアを閉め、発車を促す。
車がロータリーを出ていくのを見送り、地下鉄方面へ歩き始めたところで、背後から声を掛けられた。
「ユニコルノの松平さんじゃないですか?」
振り向くとスーツ姿の男性が二人。そのうち一人の顔には見覚えがあった。
「ああ、あすなろ出版の篠田さん。お久しぶりです。その節はお世話になりました」
「やっぱり。なんかキラッキラした人がいるなと思ったんですよ。あ、こちらはうちの社長の富田です」
前に会った時より随分砕けた口調に感じたが、顔を見ると少し赤い。酔っているのかもしれない。紹介された富田も頬に赤みがさしているように見える。
話を聞くと、同じホテルで行われていた出版業界のパーティーに参加していたらしい。同じ地下鉄に乗るというので、流れで連れ立って歩くことになった。
「松平さんにはお礼を言わなければと思っていたんですよ。無理を言って吉沢さんに会っていただいたでしょう?詳しいことは聞いてないんですが、それがいい方向に繋がったんだと思うんですよ。秦野さんが無事に復帰してくださって、我々は本当に助かりました」
そう言えば、篠田からの電話で吉沢に会うことになったのだった。
横で聞いていた、社長の富田が、ああ、というように頷いた。確か吉沢とあすなろ出版の社長は友人だと言っていたはずだ。
「まあでも、秦野さんは引き籠ってらっしゃる間も連載中の仕事だけはちゃんと送って下さって。本当に真面目というか律儀というか。他の厄介な先生方を抱えている担当者からはいつも羨ましがられてるんですよ」
酒のせいか、篠田は饒舌だ。
「だから、今度遠くへ引っ越されても、今はネットでやり取りもできますし、私はあんまり心配してないんですよ」
遠くへ引っ越し?
疑問が湧いたところで改札に着き、篠田は征治と富田とは反対方向の地下鉄に乗るらしく、ペコペコとお辞儀をしながら去っていった。
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