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<第15章> 第157話
次の日曜は5月らしい、うららかな日だった。
征治は駅から公園の噴水広場に向かう。
噴水が見えてきた辺りでベンチから立ち上がる人影が見えた。それは、こちらへ真っ直ぐ向かってくる。
陽向だ。
しっかりとした足取りで近づいて来てやがて征治の目の前に立った陽向は、じっと視線を合わせて見つめてくる。
今まで陽向がこんなに力強い視線を正面からぶつけてきたことがあっただろうか。
呼び出された理由も分からず、いつもと違う陽向にも戸惑い、征治も何を言うべきか分からないまま無言でその大きな目を見つめ返した。
「征治さん、来てくれてありがとう」
聞き覚えのない掠れた声が聞こえた。
えっ!?
征治は目を大きく瞠った。思わずマスクで覆われた口元を見つめてしまう。
陽向、話せるようになったのか!?
そう問う隙を与えず陽向は続けた。
「ついてきてください」
そして、くるりと踵を返し元来た方向へ歩き始める。有無を言わせない迫力のようなものを感じ、黙って陽向の後を追った。
駅から真っ直ぐ公園内を突っ切る形で出口を通過し、ほんの30メートルほど行ったところで、急に陽向は進行方向を変え、古そうなビルに入っていく。そしてひたすら薄暗い階段を上る。
いったい、このビルはなんなんだろう?下の方には飲食店も入っていたし、事務所のようなものもあったが、何階かの廊下に子供の錆びた三輪車が置いてあったりして、人も住んでいるようにも見える。
陽向は俺をどこに連れていくつもりなのだ?
そろそろ息が切れてきたと思ったら、階段はそこで終わりになっていて、見れば陽向は7階と書いてあるフロアの2つ目のドアにカギを差し込んでいた。
ドアを開けると「どうぞ」と言って征治を中へと促した。
中は普通のマンションの玄関のようになっているが、床はフローリングでもカーペットでもない事務所のようなリノリウムシートだ。
少し先のガラスの内扉を陽向に続いて入る。入って左手には本棚とデスク。デスクの上にはパソコンやプリンターが置いてある。
右手には小さめのダイニングテーブルと二脚の椅子。そのうちの1脚を引いて征治に座れとゼスチュアで示す。
言われるままに座ると、陽向はマスクを外し、首のストールも取るとデスク上に置き、征治から見て正面のパーテーションの向こうに消えた。
シンプル過ぎる部屋を、窓辺の日当りのいいところに沢山並べられたプランターの花と緑が彩っている。
やがてカチャカチャという音とコポコポと水が沸騰するような音が聞こえ、陽向がコーヒーを淹れているのだとわかった。
じきにトレーに2客のコーヒーカップを載せ戻ってきた陽向は、征治の向かいの席に座った。
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