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第158話

「今日はお呼びたてして、すいません。どうしても、征治さんに会って話したいことがあったんです」 思わず、まじまじと正面の陽向の顔を見てしまう。大きな黒い瞳、白い滑らかな肌に薄桃色の唇。 今、確かにこの唇が動いて、言葉を紡いだ。 「陽向・・・声が出るようになったんだね」 「はい。最近ようやく会話ができるようになりました。でも長年声帯も舌も使っていなかったせいで、まだ掠れた声で、舌足らずな話し方しかできません。でも、トレーニングを続ければもっと滑らかに話せるようになるだろうと先生には言われています」 胸に熱いものがこみ上げてきた。10年以上、かすかな声すら出せなかった陽向が確かに自分の声で話している。 口がきけるようになったのは、心の傷も癒えたということなのだろうか。俺が望んだとおり、陽向は過去に決着をつけて前に進みだせたということなのか。 そして・・・俺の罪も少しは軽くなったのだろうか・・・ 「よかった・・・っ」 もっと色々言いことがあるはずなのに、感極まって声が震えてしまい、そんな陳腐な一言で口をつぐむ。 今、何かを言おうとすれば、涙と一緒に胸の奥底にしまっていたものまですべて出てきてしまいそうだった。 陽向はこのことを伝えたくて、俺を呼び出したのだ。俺はあんなに酷い突き放し方をしたのに・・・ 陽向からの手紙に応えるべきか悩んだが、来てよかった。とんだ嬉しいサプライズだ。 と、ここで違和感を感じた。 こんな良い報告なのに、なぜ陽向は会った時からニコリともせず、硬い表情で強い視線をぶつけてくるのだろう? 「征治さん」 征治のその疑問に答えるように、陽向が話し始めた。 「僕、征治さんに会って、どうしても謝りたいことがあったんです。それから、もし、征治さんが同意してくれるならお願いしたいことも」 謝りたいこと?お願い? まるで、約1年前の東屋でのかつての征治のセリフをなぞるように陽向は言う。 だが俺が陽向に謝ることはいくらでもあるけれど、陽向に謝られるようなことなんて何もないはずだ。 陽向が何を言おうとしているのか、まるで予測がつかない。

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