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第159話

「情けないことに、僕は半年前まで、征治さんの苦しみにまるで気付いていませんでした。自分ばかりが悲劇の主人公にでもなったつもりだったのかもしれません。そのせいで、征治さんを傷つけていたことに、気が付きませんでした」 「・・・俺の、苦しみ?」 「僕がちゃんと、何もかも征治さんに話していれば・・・勝君のこと、征治さんだけにはちゃんと話すべきでした。そうしたら、コタはあんな死に方をせずに済んだかもしれないし、何より征治さんが僕の裏切り行為に辛い思いをすることもなかった。 コタが死んだあとだって、いくらでも釈明する方法はあったのに、僕が勝手に諦めて殻に閉じこもったせいで、何年も征治さんに誤解をさせたままでした。そのことで、征治さんが苦しんでいたことに僕は思い至りませんでした。許してください」 ゆっくり、一言ずつ丁寧に話した後、陽向は頭を下げた。 「そんな・・・あの頃の陽向はまだ中学生だったんだ。仕方がなかったんだよ。俺だって未熟な高校生で、陽向の気持ちを汲み取れず、酷いことを言って君を傷付けた」 「それに、僕の声が出なくなったのは征治さんのせいじゃない。僕の心が弱かったからなんです。だから、そのことで負い目を感じたりしないでください。それに、もう、このことは解決済みです」 ね?というように自分の喉を指さして見せた。 「僕が首をストールで隠さなければいけなかったのも、マスクと髪で顔を隠さなければいけなかったのも征治さんのせいではありません。 僕、慶田盛家を出て、当然ながらすぐに行き詰りました。ずっと後になって高校へ連絡して卒業証明書を発行して貰いましたが、当時はそれもなく、口もきけなかったんです。 すぐに悪い奴らに絡めとられて、堕ちるまであっという間でした」 それは想像に難くなかった。 同じように失踪した勝は当初、大きな体と柔道で鍛えた体力があったから日雇いの肉体労働でしのげたと言っていたが、陽向のあの体と中学生のような風貌ではとても無理だっただろう。

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