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第167話

「初めて征治さんのマンションに行ったとき、隣の駅でびっくりしたんです。地元から遠く離れた東京で、こんなすぐ近くにいたんだって」 「ああ、本当だね。なんだか奇跡の様に感じるよ。 山瀬さんが陽向の小説にたまたま興味を持って、いつもは一人で会いに行くのに俺を同席させて。あの日ここの公園に来たのも、いつも行く家の近くの公園が剪定作業でうるさかったからこっちへ来てみたんだ。 それから、絶妙なタイミングで千香子に会ったのも大きかったな。東京で同郷の人間に偶然会ったのなんて初めてだったのに」 首を傾げる陽向に、雨宿りした店で千香子に再会し、小太郎を殺したのは陽向ではないのではと聞いたことを教える。 そうだ、いつか千香子に礼を言いに行こう。その時は陽向も連れて行けばきっと千香子も安心するだろう。 「もう一度俺と陽向がこうやって向き合えるようになったのは、小さな奇跡が重なったおかげだ。吉沢さんが俺を訪ねてきてくれたのも」 陽向の顔が少し曇る。 「吉沢さんのことはまたゆっくり話します。今日はいっぱい喋って、少し疲れました。でもこれだけは言いたい。 小さな奇跡は重なったけど、征治さんが過去を調べなおしてくれたから・・・そして僕に会いに来てくれたから、今があるんです。征治さん、ありがとう」 そう言って陽向は柔らかく微笑んだ。 ああ。 これが見たかったんだ。 泣いたせいで瞼が少し腫れて赤くなっていても、それは征治にとってはきらきら光る天使の微笑みに見えた。 これからは陽向がずっとこんな顔でいられるように、俺はなんだってしよう。 征治は密かに誓いをたてた。

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