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<第16章>   第168話

征治と陽向がお互いの想いを確認できた日から約半月程、間の悪いことに征治の仕事が非常に立て込んでいた。 2度の出張に加え、人事担当者として社員の面談のスケジュールがぎっしり詰まっていたのだ。 陽向はそんなに忙しい時期に呼び出したことをしきりに申し訳ないと言った。そんなの、陽向の気持ちを知ることが出来て、おつりが出るどころか宝くじに当たったみたいだと軽口をたたくだけで真っ赤になるのが可愛くてたまらない。 全く今更ながら、お互いの電話番号とアドレスを交換し、陽向のスマホとパソコンにメッセージアプリをダウンロードさせた。 会えない間、メッセージやビデオ通話でやり取りしたが、陽向はビデオ通話になかなか慣れず、恥ずかしがってすぐに切ってしまう。 見ているのは征治だけなのに、なにがそんなに恥ずかしいのか分からないが、その初々しさにはついつい口元が緩む。傍にいれば直にちょっかいを掛けて、からかってやれるのに。 今の征治と陽向の間の空気は一種独特だ。 相手の根柢の部分は一緒に育った幼馴染ゆえお互い良く分かっているので、親しさは昔の様にすぐに馴染んだ。そこに青い恋人同士だったふたりが久しぶりに再会した感傷や気恥ずかしさのようなものが混じりあっている。 それに加えて、お互い長い片思いの上に想いが通じ合った新たな恋の始まりような、ふわふわとした浮遊感とドキドキする高揚感が重なっているのだ。 そして征治は表には出さないよう気を配りつつも、かつて陽向を苦しめた過去を思い、二度と恋人が傷付くことが無いように、自分にできることは何でもしようと使命感のようなものを抱いている。 征治へまっすぐな愛情を向けながらも、自分の過去を負い目に感じていると分かる陽向を、まずは目いっぱい甘やかしてやろう。 何も心配することなどないと、安心できるまで。 征治が、どんな陽向であっても丸ごと受け止めて愛情で包んでやる覚悟だと全身で感じられるまで。

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