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第169話
何度かやり取りをするうちにようやくビデオ通話にも慣れてきたと思ったら、今度は通話の最後に陽向が名残惜しそうな表情を見せるようになった。
ああ、その顔は反則だ。それでなくても、俺も陽向に会いたくてたまらないのに。
そこで征治は、土曜の夜に陽向をマンションに誘ってみた。帰宅は夜遅くなるだろうが、日曜の午後ぐらいまではふたりでゆっくりしよう。社外に持ち出せる仕事を日曜の夜にやるようにすればなんとかなるかもしれない。
その提案を聞いた陽向の顔は一瞬ぱあっと明るくなった。でもすぐに真面目な表情になって、征治さんの邪魔するわけにはいかないと固辞する。
「駄目だよ陽向。本当は陽向が喜んだの、もう見ちゃったんだから。俺も寂しいから会いに来て」
「え、あ、でも・・・」
恥ずかしいのと、嬉しいのと、遠慮しなきゃと思う気持ちが分かりやすく表情に出る陽向。
「お泊りセット持ってきてね」
悪戯っぽく言ってやると、画面越しでも分かるほど赤くなって手で顔を半分隠す陽向が可愛くてたまらない。
やがてコクリと頷いた陽向にお休みを言って通話を切った。
その週は目の回るような忙しさだったが、土曜の夜の楽しみを思うと知らず知らずのうちに口元が緩む。
ああ、これって中学生のころ、学校から帰ったら陽向が待っているかとわくわくしたのと同じだ。週末の小太郎の散歩を指折り数えていたのと変わっていないと苦笑してしまう。
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