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第174話

風呂上がりにソファーに並んで座って、アルコールを少し飲んだ。征治はビール、苦みに敏感な陽向は缶のピーチフィズ。 「そうそう、これ色が奇麗なんだって」 グラスにピーチフィズを注ぐと、可愛らしいピンク色の液体がシュワシュワいっている。 「女の子用?」 陽向はこの部屋を訪れた女性を意識したのだが、征治は全く気付かず「そんなの関係ないでしょ」と笑っている。 実際はネット広告で付き合いのある飲料メーカーが新製品をユニコルノの社員に配っていったものだ。 「陽向はお酒、飲めるの?」 「殆ど飲むことが無くて。あんまり味もよくわからないし。でも炭酸系のシュワシュワする感覚は好きかも。でも飲みつけないからいつもすぐに酔っちゃう」 確かにまだ半分も飲んでいないのに、陽向の白い肌はほんのりピンクがかっていて、目もとろんと潤んでいるように見える。 「うーん、陽向はあんまり外で飲まない方がよさそう」 「どうして?」 「可愛くなりすぎて、きっと危険な目に会う」 からかって頬を指で突っつくと、途端に真っ赤になる。 「そ、外で飲む機会なんてないから・・・」 俯きながら言う陽向の頭を撫でると、上目遣いの大きな瞳がうるうると征治を見上げてくる。 「はああ。外で飲むときは俺と一緒の時にして?ほんとに心配になる」 撫でていた手で陽向の頭を引き寄せ、自分の方にもたれ掛けさせる。 陽向の凄惨な過去を聞いているから、当分の間、必要とあればこの先ずっとだって陽向とセクシュアルなことはなくったっていいと覚悟をしているが、これぐらいのスキンシップは大丈夫だよな? 最初、驚いたのか一瞬身を固くした陽向だったが、やがて力を抜いて寄り添ってきた。 「陽向、なかなか会う時間が取れなくてごめん。メールやビデオ通話していても、やっぱりこうやって会うのとは違うよね」 「征治さん、忙しいのに無理させてごめんね。僕、会えなくても征治さんに好きって言ってもらった日から、毎日嬉しくて、楽しくてたまらない。本当に世界が変わったみたいに感じてる。でも、やっぱり今日会えたのは、特別嬉しい」 ビデオ通話じゃ、こうやって好きな征治さんの匂いを嗅くこともできないし、というのはちょっと変に思われるかもと、陽向は言葉にしなかった。 征治は征治で、「うう・・・可愛すぎる」とひとりで悶えていた。自分よりずっと修羅場を経験してきているはずなのに、このピュアさはなんなのだ。 「ねえ、陽向。本当の事を言ってよ?俺にこうされるのは、気持ち悪かったり怖かったりしない?」 陽向は大きくかぶりを振った。 「あいつらにされたことと、征治さんがしてくれることは全然別のものだって分かってるもの。僕は征治さんが好きなんだから・・・僕だって引っ付きたいって思うよ・・・」 恥ずかしそうに口にする陽向に安心する。そうか、触れ合うのは問題ないんだな。 「じゃあさ・・・おでこにキスは?怖くない?」 「怖くない」 お許しを貰った征治は、陽向の前髪をゆっくりとかきあげる。現れた奇麗な形の眉を親指でなぞり、こめかみにそっとキスをした。 陽向の顔が一瞬で赤みを帯びる。 「陽向、好きだよ」 そう囁くと、陽向は甘えるように額を征治の頬に摺り寄せた。

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