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第175話
「まだ引っ付いていたいな。陽向、おれのベッドで一緒に眠ろう」
並んで歯を磨き、寝室へ連れていく。
陽向は部屋の中で存在感を放つダブルベッドに驚いたようだった。
「大学に進学したとき、親父が学生には分不相応なファミリータイプのマンションを買って、デパートの外商任せで家具も全部揃えちゃったもんだからさ。親父の逮捕の後、マンションも家具も売ったんだけど、このベッドは引き取ってもらえなくて。その後引っ越ししたワンルームマンションでは大部分を占拠していて、俺はほぼベッドの上で暮らしてた」
なんだか言い訳みたいに聞こえてないといいけど。でもこれなら男二人でもなんとか寝れるだろう。
征治が先にベッドに上がり、躊躇いを見せている陽向を呼ぶ。
「ほら、こうやって抱き合って眠ろう」
横にやってきた陽向の体を腕を回して抱き込む。陽向は少しもぞもぞしていたが、少し自分の位置をずらして落ち着くところを見つけたようだ。
やがて、はあーという温かい吐息が胸に届いた。
「これが、どうしても忘れられなかった・・・」
「ん?」
「前に、このマンションに来た時、征治さんが僕を腕の中に抱いて、背中を撫でてくれて・・・僕、そのまま眠ってしまったことがあったでしょ?あのとき僕の神経はピリピリしていたのに、居心地が良くてこれ以上ないぐらい安心して・・・あれから何度も思い出して・・・ずっと恋しかった」
「そっか」
その後、急に黙ってしまった陽向の背中をどうした?というように優しく叩く。
「この腕の中に戻ってこられて・・・ほんとによかった」
それは俺も同じ気持ちだよ。また陽向をこの腕の中に抱きしめられるなんて。たとえ陽向とこれ以上先に進めなくても、この腕の中の温もりだけで十分だ。
陽向のふわふわした前髪にそっと口づけた。陽向がきゅっと征治のパジャマ代わりのスウェットにしがみ付く。ああ愛しい。
「お帰り、俺のかわいい恋人」
征治は陽向の耳元で囁き、二人はお互いの温もりを感じながら穏やかな眠りに落ちていった。
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