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第177話

「わあ、素敵だな」 陽向が思わず声をあげた。 案内されたのは店の外に張り出したテラス席で、鋳物の柵の向こうは木々の緑でいっぱいだ。 先ほどの公園に面しているのだが、こちらの方が3メートル程高くなっているので、公園の木々の葉が茂っている部分がちょうど目の前に広がり、公園にいる人からの視線も遮られる。 そして、征治はテラスの一番端のテーブルを予約していたので、公園の方を向いて座れば誰にも顔をさらさずに済む。 「今の季節は特に緑も綺麗だし、暑すぎず寒すぎず気持ちがいいんだ。それからね、ここのパニーニが絶品なんだよ」 「パニーニって何?」 征治はメニューを開いて説明する。 「ホットサンドみたいなの。具が色々あるんだ。陽向はチーズが好きそうだったね。他に好き嫌いは?」 10種類あるパニーニのメニューの中から、征治は「チキンとアスパラガスとモッツァレラ」、陽向は征治のアドバイスを受けながら「生ハムとトマトとチェダーチーズ」をオーダーした。 「僕、なんにも知らないね」 「そんなの、俺は東京の生活が長いからだけだよ。キッシュやパニーニを知らなくったって何も困らずに生きていける、その程度の知識だよ。でもさ、考えようによってはこれから試してみる食べ物が沢山あるってことじゃない?楽しくない?」 「そうだね。征治さん、幸せ探しが上手いね」 二人で顔を見合わせて笑う。 やがて、先程の女性が陽向の顔程もある大きなパニーニを運んできた。征治は王子スマイルで女性に声を掛ける。 「お水は自分たちでやるから、テーブルにボトルかピッチャーを置いておいてもらえるとありがたいな」 「わかりました、お待ちくださいね」 店員は愛想よく答えるとすぐに氷と水を満たしたピッチャーを運んできてくれた。 「さあ、陽向食べよう。半分に切ってあるから交換してこっちも食べてみなよ。当分、店の人もこっちに来ないし、マスクを外しても大丈夫だよ」 ああ、それでわざわざピッチャーを頼んでくれたのだ、と陽向は理解した。 それにあの女性、明らかに征治さんを見る目がハート型になってる。いつもなら小まめに水を継ぎに来て話しかけたりするのかも知れない。

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