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第179話

「征治さん、じゃあ僕さっそくお願いがあるんだけど、いいかな?」 「ん?何?」 陽向がすぐにこんなことを言うのが意外な気がしつつも嬉しく、征治は身を乗り出した。 「僕たちのこと秘密にしなきゃいけないのは分かってるけど、勝君にだけは話しておきたいんだ」 「え、どうして?」 「だってね、勝君はこの前会った時・・」 「いや、そっちじゃなくて」 「え?」 「どうして秘密にしなきゃいけないの?」 「ええっ?」 「?」 「えええっ?だ、だって、征治さん色々まずいでしょ?社会的に?会社的に?んんん?」 「俺は平気だよ。陽向が内緒がいいっていうならそれでもいいし」 「そうなの!?松平の跡取り的にもほんとはまずいんじゃないの?」 「陽向、もう俺は何にも背負ってないんだ。親父のお陰で色々失ったけど、何も持たない身軽さと自由も手に入れたんだよ。それに由緒正しきものが大好きだったじいちゃんだって、びっくりはするだろうけど、人の幸せを下敷きにして家格や伝統を重んじろとは言わなかったと思うよ」 本当だろうか?征治さんは僕に負担を掛けないように気を遣っていないかな? 「おじいさんは・・・そうかも知れないけど・・・聞いた話ではゲイの人ってもっとひっそりバレないように気を付けて暮らしてるって」 「ああ、そうかもしれないね。でもね、うちの会社にはゲイをオープンにしている社員がいる。半年前にそいつを採用したのは俺だよ。 前の会社で、ひた隠しにしていた性癖がばれて、酷い嫌がらせにあって退社に追い込まれたんだ。 バカだよね、前の会社の同僚も彼を守れなかった会社も。彼は凄く仕事ができるんだ。 LGBTに対する理解が足りないばかりに大きな財産をみすみす失ったんだ。 彼には採用するときに言ったんだ。会社でゲイであることをオープンにするのもクローズにするのも自由。もしオープンにするのなら君の仕事に支障が出ないようにユニコルノは全面的にバックアップをする。こちらもLGBTの理解を深めるのに君から情報を貰えるとありがたいって。 勿論、山瀬さんも大歓迎。結局彼はオープンにすることを決めて入社してきた。その前にユニコルノでは社員に、講師を呼んでLGBT理解のための講習会を受けさせたんだよ。 今、彼は『隠し事がないってこんなに気が楽なんですね』って元気に働いてる。大活躍してくれているよ」 陽向は目を見開いて、征治の話を聞いていた。 柔軟性に富んだフレッシュな会社。あの雑誌に載っていた活気あふれる社内の様子を思い出した。

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