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第180話

「でも、俺たちのことは陽向の好きでいいよ。ゆっくり考えればいいし。ただでさえ、俺の恋人はとっても恥ずかしがり屋さんだからね」 征治はクスクス笑いながら言う。 「ごめん、話の腰を折っちゃったね。で、勝がなんだっけ?」 陽向は昨年、月野珈琲で会った時に勝から一緒に暮らそうと言われたが断ったこと、その時は吉沢さんと生きていくことになると思っていたのでそう話したことなどを説明する。 「ほかでもない征治さんとこうなったから、ちゃんと勝君には僕から話しておきたいんだ」 「勝のやつ、そんなこと言ってたんだな。ふーん、ちょっと見直した。俺もあいつにはちゃんと話すのがけじめだと思う。あとで俺からも連絡を入れるよ」 「それに、勝君も征治さんと同じくらい僕の声を気に病んでいたと思うから、話せるようになったって伝えたい」 「それはきっと泣いて喜ぶよ。陽向は声が出るようになったこと、まだあまり周りの人に話していなかったの?」 「うん。知り合いという意味ではアルバイト先の税理士事務所のお爺ちゃん先生と事務のおばさん2人にだけしか話してなかった。その3人には仕事中に会話の練習相手になってもらって。 他の人は誰かと繋がっているというか・・・どうしても一番最初に征治さんに報告したかったから。だから、これから話していくつもり」 篠田さんや富田社長、吉沢さん。親切だった酒田工場長。ずっと心配してくれていたという千香子さんにも伝えたい。できることなら僕を可愛がってくれた慶田盛家の元使用人の面々や森本弁護士にも。 こうやって考えてみると、僕は決して一人ぼっちなんかじゃなかったんだな。

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