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第181話
「俺は食後にコーヒーを頼むけど、陽向は何にする?本当は苦くてコーヒーは苦手なんじゃない?月野珈琲でもこの前陽向の家にお邪魔したときも、あんまり手を付けていなかったでしょ?」
「・・・ばれちゃった。なんとなく打ち合わせとか、喫茶店とか入ると大人の男性はコーヒーを頼むものなんでしょ?みんな、好きなんでしょ?味覚障害のことは誰にも話してなかったから、みんなと一緒でいいやと思って。それに、香りは大好きだから・・・」
「じゃあ、香りは俺ので楽しむとして。味はどれを楽しむ?」
メニューを広げつつ、追加オーダーの気配を察知してこちらへ向かおうとする店員に気付きマスクを陽向に手渡す。
「ココアでも陽向の好きなシュワシュワでも」
メニューを目で追っていた陽向が「あ」と小さく声をあげた。
「どれ?」
「征治さんってメロンソーダ、飲んだことある?」
「うーん、子供の頃何度か飲んだと思うけど?」
「美味しい?僕、飲んだことなくて。子供の頃父さんと母さんと最後に三人で出かけたとき、メロンソーダがあって、すごく惹かれたんだけど、母さんが『体に悪そうな色ねえ』っていうから頼めなくなっちゃって。
その後二人が死んじゃってそんな機会も無くなったし、なんとなく母さんの言葉の呪縛から逃れられなくて・・・僕にとってはメロンソーダって気になるけど手を出してはいけないような不思議な存在」
「そんなにずっと気になっているなら一度飲んでみたら?一回ぐらいじゃその色も大して影響ないよ、きっと」
「うーん、だけど、子供の飲み物?ちょっと恥ずかしい」
そこへ、先程の店員がパニーニの皿を下げつつ、追加オーダーを取りにやって来た。
「僕はメロンソーダ、彼には深煎りコーヒーをお願いします」
征治は何食わぬ顔で注文しながら、目ではいいよね?と陽向を窺う。陽向は瞬きでOKを送った。
やがて運ばれてきた真緑色のグラスが征治の前に、深煎りコーヒーが陽向の前に置かれた。
店員が奥に引っ込むまで”コーヒーの香りを楽しんで”から、交換する。
「はい、憧れのメロンソーダ」
陽向は「うーん、凄い色。エメラルドみたい。こんなに濃い色の食べ物って他にある?あ、真っ赤とか真っ黄なピーマンみたいなのはあるか・・」などとブツブツ言いながら、グラスを右から左から覗き込む。
考えていることが自然に口から零れてしまっているような様子が可愛くて、征治は密かにニヤニヤしてしまう。
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