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第182話

ようやくストローに口を付けた陽向は一口飲むと目をパチパチさせた。 「どうだった?」 「・・・僕の味覚の問題かな?」 征治は手を伸ばし、グラスを取り上げるとストローに口を付ける。グラスを陽向に返しながら 「うん、大体こんな味だね。陽向は甘みを感じにくいからかな?」 「そうなんだ。これってメロン味?」 「いや、メロン味ではなく、メロンソーダ味。好みじゃなかった?」 「不味くはないよ?だけど・・・一度でいいかな」 肩をすくめる陽向に、征治は声をあげて笑う。陽向もえへへとつられて笑った。 「母さん、もうメロンソーダはやめておくよ」 空に向かって、陽向が言う。 「・・・陽向。風見さんは・・・陽向の両親は俺の事、許してくれるかな・・・ 自分たちを死に追いやった憎い男の息子が、大切な陽向のこと・・・」 「征治さん。父さんも母さんも、征治さんの事大好きだったよ。いつも征治さんの事褒めてたもん。それに二人が僕のことを大切に思ってくれているのなら、僕が世界でただ一つ欲しかったものに手が届いたんだって知ったら、きっとよかったねって言ってくれると思う」 「・・・そうだと、いいな」 それからしばらく、二人は無言で見つめ合っていた。 父さん母さん、許してね。僕はどうしても征治さんじゃなきゃ駄目なんだ。 おじさん、おばさん、ごめんなさい。だけど、俺はどうしても陽向を手放せません。これからは陽向がずっと笑っていられるように、愛情をいっぱい注ぎます。 二人の思いを天に運ぶように春の風がざあっと吹き上げ、木々の緑をざわざわと揺らした。

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