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第185話
気持ちを切り替え、征治は仕事に取り掛かった。
時間の経過を忘れる程集中して次々と案件を片付け、なんとか目途がついたと思った時、電話が鳴り始めた。
パソコンの前で座りっぱなしで固まった体をほぐしながら電話を見ると「勝」と表示されている。
応答した途端、
「兄貴!!」
と大きな声が耳に飛び込んできた。
きっと陽向が連絡したのだなと思いながら、あまりの声の大きさに反射的にスマホを耳から少し遠ざける。
「陽向の声が!・・・またあいつの声が聞けるなんて・・・っ、こんな嬉しいことがあるか!?」
しかし、その後に続く勝の言葉がない。
だが耳をすまして、勝が泣いているのだと分かった。
堪えようとしているのだろう、ふぐっふぐっと漏れ聞こえる嗚咽。
勝も今までずっと辛かったに違いない。弟が抱いてきた罪悪感が理解できるだけに、気が済むまで泣かせてやった。
「大丈夫か?」
落ち着いてきた様子をみて弟を質 すと、やはり少し前に陽向から電話があり、声のことと征治とのことを報告を受けたと言った。そして電話を切った後も嬉しくて興奮が収まらず、部屋で一人で祝杯をあげていたという。
「なんだか不思議な感じがしたよ。陽向の声を聞いたのがもうあんまり昔過ぎて・・・
あいつが声を失う前に言ったことは逐一覚えているのに・・・俺が陽向の声を奪ったんだからちゃんと覚えておかなけりゃって思ってるのに・・・その時の声がどんなだったかどんどん記憶が薄れていって・・・
焦りというか申し訳なさというか、なんともやり切れない感情が胸の中にずっとあったんだ」
ポツリポツリと話す勝に相槌を打ちながら付きあう。
「それがいきなり、『勝君、陽向だよ』なんて、電話が掛かってきて・・・あいつは喋れないはずだし、知らない声だし、最初は事情を知らない奴が詐欺の電話でも掛けてきたのかと思った」
「ははは、そうだよな」
「だけど、本当に陽向で・・・『心配かけてごめんね』なんて言いやがって・・・っ」
また泣きそうになったのか、勝は言葉を詰まらせた。
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