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第187話
「勝と会った時もずっとマスクをしていただろう?それもトラウマのせいなんだ。今の陽向は前髪とマスクで顔を隠さないと人前に出られない」
勝の声のトーンが落ちた。
「そうか。俺でさえここに辿り着いて落ち着くまで色んなことがあったんだ。さぞかし辛い目にあったんだろうな・・・
だけど、無事に生きていてくれただけでもよかったと思わないとな」
「俺もそう思う。それにトラウマのせいで体に不調があっても、中身は昔のまんまで全然擦れたりしていないんだ。俺はそのままの陽向が傍に居てくれるだけで十分なんだよ。陽向にそれを分かってもらえるように努力するよ」
「それを聞いて安心した。兄貴・・・陽向を頼む。幸せにしてやってくれよな。俺が協力できることがあったら何でも言ってくれ」
その言葉に今更ながら『勝も大人になったなあ』としみじみ思う。もう少しすれば、未だ絶縁状態である父親とも、許すまではいかなくとも折り合える地点が見つけられるかもしれない。
父も変わったのだ。そして征治自身も、かつては理解し合うことは到底無理だと思っていた父親を見る目が以前とは違ってきていると自覚している。
そこで、少し前から考えていたことを口に出してみた。
「なあ、勝。いつか3人で地元に帰ってみないか?
陽向も飛び出してから一度も地元に戻っていないらしい。両親の墓のことが気になってるようだし、本当はじいちゃんからの信託財産を受け取るために手続きに行かなきゃならないはずなんだ。
お前も森本先生のところで手続きがあるだろう?
俺も今まではずっと、都合のついた時にじいちゃんと母さんの墓参りに行くだけでとんぼ帰りしてたんだが、今度行くときには風見さんのお墓にも慶田盛家がしたことをちゃんと詫びに行きたい。
それからじいちゃんと母さんに、俺は松平の血は遺せないって謝っておこうかと思って」
「・・・そうか」
しばらく沈黙が続いた。
「・・・そうだな。松平の墓には小太郎も眠ってるんだよな。陽向は重さんのところにも行きたいかも知れないな」
「すぐにじゃなくていいんだ。あそこに家が無くなっても俺たちは3人共にそれぞれ、あそこに色んな感情がある。一度整理しに行くのもいいかと思ったんだ。考えてみてくれ」
分かったと言った勝と互いに体に気をつけろなどと言い合って電話を切った。
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