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第192話

その夜、ウィスキーを舐めながら録画していた映画を見ていると、陽向から無事書き終えて、出版社に送信したと報告が来た。 「シチューもいただきました。ありがとう」 礼を言う陽向の目は充血していて、何度も瞬きを繰り返している。きっと疲れているのだろう。もう寝るように言って早めに通話を切った。 陽向はしきりと恐縮していたが、今日は十分楽しかった。 特に家事が好きなわけでも得意なわけでもなく、いつもは必要に迫られてやっているだけだが、簡単な焼きそばとはいえ作ったものを二人で皿によそい、会話をしながら一緒に食べるだけでもちゃんと心は満たされた。 ハグした時だけでなく、キッチンで焼きそばを覗き込んだ時も肩を揉んでやった時も、恋人らしいパーソナルスペースで気負いなくいられるようだったし、タトゥーもためらうことなく征治の前に晒すことが出来ていた。 陽向が少しずつ自分に馴染んでいっているのが分かって嬉しい。 それでも、陽向はまだ征治に対して引け目を感じているのだろうか? そもそも陽向は何を引け目に感じる必要があるのだろう。 何も気にしなくていいと言葉にして言ってやればよいのだろうか。 俺が陽向にしてやれることはなんだろう。 色々考えを巡らせるうち、ふと今日見た陽向の白いうなじを思い出した。陽向の髪を上げたとき、男でもセクシーに感じる部分なのだとドキリとしたのだ。 会えて嬉しいと耳元で囁かれた時のあのゾクリとした感覚も体内に蘇る。陽向の見上げる瞳と触れてきた指先の感触も思い出した。 ああそうか、これが一番の問題なのだと、自分の中心に熱が集まり始めたのを感じて理解した。 陽向とはセックス出来なくてもいいと思っている。 だが、愛しい人が傍にいればキスをしたい、触れたいという欲求が湧いてくるのは自然な事だろう。 今日だって俺はあの白い首筋に口づけたいと思ったのではなかったか? 俺はどこまで耐えられるのだろうか。いや、陽向との良好な関係にそれが必要なら耐える覚悟はある。 だが、独りよがりな自己満足にならぬよう、陽向を追い詰めぬよう気を付けなければ。 いまや、はっきりとスウェットを持ち上げている自分の昂りを見て、征治は溜息をついた。

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