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第194話

「この車、右ハンドルだけど外車?とってもかっこいいね」 「これね、山瀬さんの親父さんのお古なんだ。主に奥さんが使ってたそうだけど。 親父さん裕福でもあるんだけど、付き合いで割と短いサイクルで車を買い替えるらしくって。要らないかって。『征治君、ベントレーとマセラティとアウディの中から1台買い替えるからどれがいい?』なんて恐ろしいこと言うんだよ」 「恐ろしい?」 怪訝な顔をして首をかしげる陽向に説明を加える。 「ああ、ベントレーは2千万超、マセラティは1千万超する車なんだよ。アウディでも国産車よりは高いけどまだ可愛げがある値段」 「す、すごいね」 「でしょ?迷わずアウディって言っちゃったよ。俺は国産車で十分なんだけど、いつも可愛がって貰ってる人からのせっかくの厚意を無下に断るのも気が引けて、結局贈与税が掛からないギリギリまで下げた値段で売って貰ったんだ」 「ふうん。征治さんって山瀬さんのお父さんとも親しいの?」 「山瀬家はね、家族共通の趣味がテニスなんだ。元々、俺と山瀬さんが知り合ったきっかけは大学のテニスサークルの友達の従兄として紹介されて一緒にテニスをしたことなんだよ。 それから山瀬家が会員になっているテニス倶楽部に時々招待されて。親父さんは忙しい人だからそう何度も会ったわけじゃないけど」 急に静かになったように感じて、助手席にちらと目をやると陽向はカバンの持ち手をぐにぐにいじりながら何か考え込んでいるように見えた。 「陽向?」 陽向はハッとしたように顔をあげると、取り繕うように笑う。 「どうしたの?」 「ん?あ、ねえ征治さん、今日行くところに本屋さんってある?」 なぜか無理に話題を変えたような引っかかりを感じたが・・・気のせいだろか? 「ああ、あるよ。かなり大きな書店だったと思うよ」 「じゃあ、僕、そこにも寄りたいな」 「うん、そうしよう。秦野青嵐先生の本が置いてあるか見てみよう」 「ええ?嫌だよ」 「いや、見るよ。今や、あちこちの本屋で秦野青嵐の本が置いてあるか確認するのが俺のちょっとした趣味になっているからね。無い時はリクエストして帰って来る」 あはははと笑い出した陽向に安心したころ、車は目的地に着いた。

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