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第195話
ショッピングモールはとても混んでいた。雨のせいで行楽に出掛けられない人達が集まってきているのかもしれない。
陽向は人の多さに驚いたのかショッピングフロアに着くなり伊達メガネを掛けた。
まずはフロアガイドで目的の店を確認する。
「僕が想像していたのよりずっと大きい。一体いくつお店が入ってるの?」
広々とした中央の吹き抜けの空間から上階を見上げながら陽向が感心している。
「わあ、映画館もあれば病院もあるんだね。スポーツクラブまで?本屋さんもすごく広そう」
弾んだ声を出す陽向は、本当に嫌がっていないように見える。楽しんでくれればいいなと思いながら、目的の店に向かって歩くよう背中を押して促した。
「それで結局何を買うんだっけ?」
大きなインテリアショップに着いたところで陽向が聞いた。
「俺の部屋に置いておく、陽向の茶碗と陽向の箸と陽向のマグカップ。それから陽向の枕と陽向の部屋着兼パジャマ」
にっこり笑って答えると、大きく目を見開いた陽向がみるみる真っ赤になっていく。
「俺が勝手に買っちゃうより、陽向の好みの物を選んでもらう方がいいからさ」
「それが征治さんの買いたい物なの?」
「そうだよ。まだ他にもあるけどね。さあ、選んでいこう?うーん、わくわくするね。あ、シャンプーとかトリートメントも自分の好みの物置いておきたい?パンツも買っておく?」
慌ててブンブンと首を振る陽向に、口元が緩む。
最初は戸惑っていた陽向だが、二人でこっちが使いやすそうだのこっちの方が洒落てるだの言いながらのショッピングはなかなかに楽しそうだった。
征治もスープカップや皿などを追加で選ぶと、枕がかさ張ることもあってそれなりの荷物になった。
「じゃあ、次行くよ」
征治は頭に入れておいたフロアマップを頼りに歩き始める。途中でシネマコンプレックスを見掛け征治は無意識に呟いた。
「随分長いこと映画館行ってないな」
「僕は、行ったことがないよ」
陽向の返事に驚きつつも、陽向の今までの暮らし、つまり遠慮ばかりしてきた慶田盛家での生活やその後の荒んだ環境と負ったトラウマを考えるともっともなことだと思う。
「じゃあ、今度は一緒に映画を見に行こう。映画館って恋人のデートの定番だもんね?」
そう言ってウィンクをすると、陽向は耳を赤くして、くすぐったそうに肩をすくめた。
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