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第215話

シャワーを浴びなおしてベッドに潜り込むころには、二人の酔いも醒めて気持ちも落ち着いていた。 向き合って横になりながら、征治は、もし陽向が嫌でなければ、客を取らされていたときの事や、ペットにされていたときの事が聞きたいと言った。 陽向は眉根を寄せて、戸惑っている。 「聞いても楽しい話じゃないと思うんだけど・・・」 「陽向の事を理解したい。話すのが辛ければ無理にとは言わない。でも、話を聞いた俺が何か変わってしまうと思っているなら、そんな心配は無用だよ」 そう言って頬を撫でると、陽向は考え込んだ。 「思い出すのも嫌?怖い?話せることだけでもいいよ。それとも、こんなお願いをするのは陽向の傷を抉ることになる?もしそうなら、やめる」 「・・・征治さんがただの興味で言ってるんじゃないって分かってる。征治さんの行動がいつも僕の為を思ってのものだっていうのも分かってるよ・・・ だけど・・・ 征治さんは僕が男娼やペットだったことを知った上で傍にいてくれるのに、僕が話すのをためらう理由はなんだろう・・・?」 陽向は目を閉じ、暫く自問していた。 「・・・きっと呆れられるのが怖いんだ。僕の経歴そのものじゃなくて、そんなところに堕ちてしまった情けない僕のことを。それはきっと僕自身がずっとそう思ってたから」 「陽向、大丈夫だよ。もう過去に起こってしまったことは今更変えようがないんだ。もし、過去に自分が間違った判断をしたと思っているなら、それを話してくれれば、そう判断せざるを得なかった当時の陽向の置かれた状況や心理と、後悔している今の陽向の考えが両方分かるんだから。俺はそういうことが聞きたいんだ」 「・・・嫌いに・・・ならない?僕、もう征治さんのいない世界なんて・・・」 陽向の声が微かに震えているのに気付き、ぐっと体を引き寄せ腕の中に抱き込んだ。 「前に、過去もタトゥーも全部丸ごと受け止めるって言ったの、忘れちゃった?大切な相手じゃなければわざわざこんなこと聞かない。二人の問題だって捉えているから理解したいと思うんだよ」 そう言って背中を優しく撫でてやると、小さな声で「うん」と返ってきた。 やがて陽向は、ぽつりぽつりと話し始めた。

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