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第220話
店の男が「先生でラッキーだった」と言った意味は、すぐに分かった。
地獄はもっと酷いところだった。あれでも「先生」はとても紳士的な客だったのだ。
次からの客は皆もっと暴力的に陽向を抱いた。
初めての経験で不快感と嘔吐がリンクしてしまった陽向は、慣れぬうちは何度も吐いてしまい、客に殴られたりお仕置きと称して痛い目に会わされることも度々だった。
殴られたアザを見て、自分もサディスティックな行為をしていいのだと勘違いする客もいた。
受け側の男娼を買う全ての客がそういう傾向にあるのかと思っていたが、後に店のサイトに「嗜虐心をそそるMっ子」と自分のプロフィール欄に書かれていたことを知った。
心身ともに疲れ切り、ぼんやりする頭で、その記載はやめて欲しいと店に訴えてみたが、
「お前みたいな見た目は、こういうのが受けるんだよ。こういうのが好きな奴は、口がきけないっていうのも逆にそそるらしいぞ。お前、他に客を喜ばせるテクなんて持ってないだろ。文句言わずにバンバン客を取って、早く借金返しな。トウがたっちまったら、臓器売るしか無くなるぞ」
と、一蹴された。
それもいいかもしれない。
疲れた頭にそんな暗い考えが浮かぶ。
客からの指名がゼロになれば、店も諦めてくれるのか?
腎臓っていくらぐらいで売れるのだろう?
それとも・・・そのうち心が麻痺してしまえば、苦痛を感じなくなるのだろうか?
三階建ての寮のマンションは、建物全体が店を仕切っているグループに占有されていた。
1階は風俗店、2階は賭博場になっているらしかった。
表に看板は無く、どうやって客はここを知って来るのだろう。ネットかもしれない、その程度しか興味は湧かない。
マンションの入り口にはかつて住み込みの管理人室があったのを改造した事務所があり、その前を通らなければ出入りが出来ない。
管理人室の受付用窓ガラスがマジックミラーになっていて、客たちは何も気づかずその前を通っているが、中からは丸見えでカメラで撮影され録画もされている。場合によってはその録画を恐喝の材料にも使うらしいと誰かが言っていた。
それは同時に3階に押し込められている陽向達を監視する役割も担っていた。
各階の共用廊下と非常階段にも監視カメラがつけられ、事務所でモニターされている。
陽向がここへ連れてこられた日、同じ部屋の男から「監獄へようこそ」と言われたが、まさに言葉通りだった。
近くのコンビニへさえ一人で外出することは許されていない。
皆、多額の借金を背負っているせいか陰があり、監視され続ける閉塞感もあり異様な雰囲気だった。
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