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第232話
多分、これがこの男の本当の姿だ。
どうやら糖尿病のせいで随分前から勃起障害があるようだ。彼がいつまでも陽向を抱こうとしなかったのは、抱けなかったというのが正解だったのだろう。
鬱積する欲求不満。プライドの高い男を苛む激しいコンプレックス。
本人の自覚の有無は定かではないが、人をペットとして飼い支配下に置くことで、征服欲を満たしてきたのかもしれない。
最近は、倶楽部でペットを褒められ、自己顕示欲も満たされた。そして、思いのほか陽向のことを気に入り、猫かわいがりすることで欲求のはけ口が出来ていたのかもしれない。
暴れ続ける男を見ながら、陽向は冷めた思いで分析した。
これからどうなるのだろう?
ペットは解消なのか?このまま解放なんてうまい話はないよな。その場合僕の借金はどうなるのだろう。またあの店に戻されたら・・・それはあまり考えたくなかった。
突然ゴルフクラブを床に投げ捨て、芹澤がこちらを振り返った。汗だくで目が座っているが、ひとしきり暴れたからか、さっきほどの怒りは見て取れない。
「ブラン、体洗ってこい。青臭え」
腹の上でもう半ば乾いているそれを、他に拭くものが無いので落ちていたボクサーブリーフで拭い、バスルームに向かおうとするが、すぐに呼び止められる。
「風呂行くなら外さねえと」
とポケットから首輪の鍵を取り出した。
踵を返し、芹澤の元まで戻り、頭を傾げ首を差し出す。
「・・・なんて眼してやがんだ」
憑き物が落ちたように素の顔に戻った芹澤が呟く。
そう言われても、陽向には自分がどんな顔をしているか分からなかった。
「お前、言い訳の一つもねえのかよ・・・って、出来ねえよなぁ」
男は顔を顰めて自分の頭をガシガシと掻きむしった。
バスルームから出てきたときには芹澤の姿はもうなかった。
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