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第235話

最近はテレビのスイッチを入れることもない。 元々ニュースなどの報道番組は、世の中で起こっていることと自分の生活とがあまりにかけ離れていて同じ時系列上にあると信じられなかったし、芸人たちが馬鹿笑いをしたり他愛もないクイズを解いているようなバラエティ番組は更に遠い異次元な世界だった。 本が一冊も無いこの部屋で、唯一慰めになったのは映画だった。最初からフィクションだと分かっているのだから、作られた世界に浸ればいいだけだ。 だが、このところどんな映画を見ても、台詞が目や耳を通り過ぎるばかりで少しも頭に入ってこない。勿論、心が動かされることもない。 頭にいつも薄っすら靄が掛かっているようで、日常がぼんやりしている。 脱走が失敗した後、もう一度パーティーに連れていかれた。わざわざ背中の大きく開いた衣装を陽向に着せ、芹澤が会員たちに自慢げにタトゥーの話をしていた。 独占欲を強く滲ませるようになった芹澤がブレスレッド無し、つまりボディタッチも禁止にしてくれたのは助かったが、ハイになる薬を飲まされるのには閉口した。 本当は連れていかれるのが嫌でたまらないはずなのに、会場のミラーボールがキラキラ光るのがとてつもなく美しく見えたり、芹澤が膝に抱いて皆の前で食べさせるフルーツが絶品に感じたりしてしまう。 と同時に、それを冷笑しながら俯瞰しているもう一つの僕の意識があって、人格が二つに分裂してしまうような恐怖も感じるのだ。 だが、それでいいのかと思い直す。 男娼時代、代わるがわる見知らぬ男たちに肉体を冒される苦痛を味わった。 今は、快適な犬小屋を用意して世話をしてやっているのだから早く飼い主に懐いて愛すべきだと、じわじわと精神的に追い詰められる苦痛を感じている。 なぜ懐いて尻尾を振らないのかと飼い主が癇癪を起すたびに、酷く消耗した。 空っぽの人形になってしまえば、楽になれるのかも。 だが、空っぽの人形になってまで生きる必要があるのだろうか?

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