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<第20章>   第240話

「はあ、はあっ、痛い、苦しい。もうやめて!」 自分の叫び声で、意識が覚醒した。 ああ、夢だ。夢を見たんだ。 全身に汗をびっしょりかいているのが分かる。 だけど、瞼を開けばちゃんと夢が終わって、まともな日常に戻れると、もう僕は知っている。 だから目覚めることはもう怖くない。 それに最近こういう夢をよく見る理由もちゃんと分かっている。 ぱちっと目を開くと、やはり見慣れた自分の部屋の天井が明け方の薄明かりの中で見えた。枕元のスマホで時間を確認すると5時20分。まだ目覚ましの鳴る前だがもう起きてしまおう。 勢いよくカーテンを開いて外が晴れていることを確認した頃には、悪夢の気配はすっかりどこかへ消え去った。 どうせランニングで汗をかくと、そのままポロシャツとジョギング用のハーフパンツに着替え、征治さんから貰ったキャップとスポーツ用サングラスを手に取った。 ストレッチの後、公園の外周を走り始める。 もう夏と言っていい季節だが、この時間はまだ空気がひんやりとしていて気持ちがいい。 それでも以前は、首の周りにタオルを巻き、サングラスではなくパンチで穴を開けた自作のマスクを着けて走っていたから、もっと暑苦しかった。 今は征治さんのおかげで、襟付きのポロシャツとスポーツサングラスで走れるようになった。 征治さんは凄い。 征治さんと付き合うようになって、僕はもっともっと征治さんが好きになった。 征治さんは、一見爽やかな王子様だが、山瀬さんには結構毒舌を吐いたりする。僕のことをからかって遊ぶのも大好きだし、かなり強引なところもある。 だけど、時々すごく可愛いくて、とてつもなく優しい。 そして、僕にはとても甘い。 甘やかしすぎと言った方がいいかもしれない。 そのせいか、僕は征治さんを前にするとまるで子供に戻ったようになってしまう。2歳の年齢差が絶対的なお兄さんに見えていた、慶田盛家に居た頃の僕に戻ってしまうのだ。 それから、征治さんは魔法が使える。 いや、暗示を掛けるのがうまいのかな? くちゃくちゃに丸めた紙屑のようになっていた僕の心を、丁寧に広げ、1本ずつ皺を伸ばすようにして、「ほら、どこも破れてないよ、大丈夫だよ」と征治さんが言ってくれると、僕はいつの間にか「あれ?本当だ。何がそんなに問題だった?」という気持ちになるから不思議だ。

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