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第241話
僕が最近、苦しかった頃の夢を見るのは、あの晩、征治さんに知りたいと言われて、何もかも話したせいだ。
実は、あの夜ベッドの中だけではとても話しきれず、翌日の土曜日も映画に行く予定をキャンセルして、征治さんはずっと話を聞いてくれた。
その後、征治さんは「生きていてくれてよかった」と何度も僕を抱き締めた。
「もうそれだけで十分だ」と僕のおでこや指先に散々キスをした。
「話を聞いて、なぜ陽向がずっと後ろめたい気持ちでいるのか分かった気がするよ」
「それは、僕も自分で話していて分かってきた。あの頃の僕は・・・闘う前から何もかも諦めてしまっていたというか・・・自暴自棄を起こしてあんな世界に堕ちる前に、相談なり駆け込むところがどこか他にあったはずなんだ。あいつらだって、いきなり角膜を取ったりするわけ無かっただろうし・・・物事を悪い方ばかりに考えて悲観的になってた。
きっと僕より厳しい境遇で生きている人はたくさんいたはずなのに。レイのように実の親に売り飛ばされた人、誰かに大切にされた記憶すら無い人だっていると思うのに、死にたいと思うなんて、僕はほんとに甘ちゃんだった」
「人はずっと強くはいられないよ。陽向は両親を殺されたと知ったショックの上に人に騙されて、投げやりにもなっていたんだろう。
誰も心を許せる人がいなくて、周りは自分を傷付ける者ばかりという状況で、まだ18,19の陽向がうつ状態に陥ったって仕方ない。
僕もちょっと研修で齧ったけど、うつ状態になるとね、人は元気な時とは全く違う思考回路になってしまったりするらしいから。
同僚が目の前で自殺してしまったことも、大きな影響を与えただろうしね」
そう言われて少し納得した。あの頃の精神が負のスパイラルに取り込まれていく感じは、もしかしたらそうだったのかも。
「それからね、もう一つ分かったことがあるよ」
征治さんはそう言って、僕の頭を撫でた。
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