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第242話

「陽向はね、芹澤や沢井にすら、申し訳ないという気持ちがあるんだよ」 え?申し訳ない? 「勿論、首輪を付けてペットだなんて、陽向の尊厳を傷つける扱いや性癖に嫌悪感を抱いただろうし怒りもあったと思う。勝手に刺青まで入れられて憎い気持ちもあっただろう。 だけど、陽向はどこかで芹澤たちの歪さや不器用さに同情もしていたんじゃないのかな。そして元来の生真面目な性格から、対価を支払った彼らの期待に応えることが出来なかったり、逃げ出したことを申し訳なく思っちゃっているんじゃないのかな」 目から鱗が落ちた気がした。 「ハリウッド映画みたいに、『敵は絶対的な悪だから、何をやってもいい。迷う必要はない』なんて分かりやすければ、単純に憎んでお終いで楽なんだ。だけど、彼らは絶対悪なんかじゃ無かった。そうじゃないからいつまでも陽向の中にわだかまりが残っているのかも知れないね」 「自分で気づいていなかったけど・・・もしそうだとしたら、そんな風に思ってしまう僕は・・・おかしい?」 「俺はね、陽向の本質的な優しさのせいだと思うよ。 例えば芹澤は自分の欠落を埋める愛しむ対象が欲しかった。ただ、どうしていいか分からず手段を誤った。きっと陽向はそれを感じていたから、彼を完全に拒絶できず憎み切れなかった。 だけど、自由を奪われ一方的な期待を押し付けられることは受け入れられない。そんな葛藤があったから、それなら自分が消えてしまえばいいと思ったのかもしれないね。 今、陽向が無事にここにいるから言えることだけど、陽向のその他人の痛みに寄り添える優しさは決して悪いことじゃないと思うよ。 それが陽向の小説の原点だとも言えるしね。 だから、みんな陽向を好きになって夢中になってしまうのかもね」 「みんな?」 「勝なんかはその典型だろう?あいつは陽向の優しいところが好きで、陽向に救いを求めてたんだ。吉沢さんも決して陽向の見た目で好きになったのではないと思う。芹澤だって、このままでは陽向が死んでしまうと、陽向の為を思って手放したのかも知れないよ」 あの当時は僕の容姿が芹澤の好みから外れたせいかと思っていたけど、そうだったのだろうか。 征治さんが僕を抱き締めながら言った。 「俺も陽向に夢中だよ。だけど、陽向がこの腕の中から出たいと思った時、手放してあげられる自信が無い。陽向の為を思うならそうしてあげなきゃいけないのにね」 そんなこと、僕が思うはずない。 「だから、陽向に嫌われないように努力しなくちゃ」 「僕だって、それはおんなじ」 そう返して、征治さんの首筋に鼻を埋めて、柑橘系とグリーン系の混じった大好きな匂いを胸いっぱい吸い込んだ。この腕の中より安心できる場所なんて、どこにもない。

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