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第248話

「俺がいない間、好きに部屋を使っていいよ。陽向の部屋、凄く暑いんだろう?」 まるで断熱仕様になっていない上に日当たりが良すぎて夏はサウナの様に暑くなることを知っている征治さんは、そう言って部屋の鍵を渡してくれたけど、征治さんが居ないんなら行っても仕方がない。 だけど、今夜遅くに帰って来る予定の征治さんより少し早く部屋に行って、軽く掃除をしておいてあげようかなとか、お風呂を沸かしておいてあげようかななんて、ちょっぴり乙女チックな事を考えていた。 今日は土曜日だが、征治さんは月曜日に代休を取ると言っていた。 『日曜日、泊まりにおいで』 忙しい合間にくれたメッセージに、思わず口元が緩む。 『土曜日から行ってもいい?』   『家に着くの10時過ぎるよ?』 『それでも行きたいな』 『じゃあ、来て。俺も少しでも早く陽向に会いたい』 最後のメッセージには、まるで中学生の様に舞い上がって、ひとりベッドの上で悶えてしまった。 だから、この週末を充実したものにするためにも、僕はせっせと仕事を前倒しにして進めてきたし、本当は月曜の予定だったあすなろ出版での打ち合わせを、今日の午後に変更してもらっていた。 「はい、これで結構です。そうそう、『カシカカノウ(可視化可能)』の装丁画ですが、わざわざタイトルもカタカナにしたし、秦野さんの作品の中では一番コミカルな要素が強いので、かなりポップなものにしちゃおうかと思ってるんですが、いかがですか?」 「うーん、タイトルが軽くてカバーがポップだと、ライトノベルみたいになっちゃいませんかね?あ、いや、僕の頭の中のポップのイメージが変なのかも知れないから、いつもみたいにお任せしちゃった方がいいのかな・・・。 えっと・・・ちょっと思いついたのは、見えないものを見える化するという意味だから、カタカナのタイトルはそのまんまでいいんですけど、漢字の可視化可能の5文字を絵の中に潜ませて、探すと見つけられるみたいな遊びがあると楽しいかな、なんて。 そんなこと上手くできるのか素人の僕には分からないですけど・・・」 いつもポンポン帰って来る篠田さんの反応が無いので目を上げると、篠田さんが目を瞬かせている。しかし次の瞬間、大きく破顔した。

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