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第250話

仕事の打ち合わせは終わっているので、手持ち無沙汰でスマホを手に取ると、メッセージ着信を知らせるランプが点滅していた。 この色は征治さんだ。まさか、今日帰れなくなったんじゃ・・・ 慌てて開くと、 『一つ仕事がキャンセルになって、早く帰れるようになった。 家に着くのは、8時前ぐらい』 とあった。着信は2時間近く前だ。 嬉しいと同時に焦る。 東京駅から征治さんの家まで1時間弱。品川だと、あまり利用したことが無いからよく分からないけど、多分もう少し掛かる。きっと東京駅で降りるよね? 『新幹線、何時に着く?』 と書いたところで、篠田さんが紙袋を手に戻って来た。 「これどうぞ。用意してから伺うのも変ですが、鰻、お嫌いじゃないですか?」 もう何年も食べていないけど、昔は大好きだった。 手渡された袋はずっしりと重い。保冷材のせいですよと篠田さんは言うけれど、こんなもの頂いていいのだろうか。 「あんまり大きな声では言えませんがね、先生方の中にはやれ脱稿だ、やれ上梓だと何かにつけて銀座のお店へお連れしなきゃいけない方もいらっしゃるんですよ。秦野さんは、お誘いしても軽い打ち上げすらいらっしゃらないので、私の接待交際費は随分余ってるんです」 篠田さんは悪戯っぽく笑っているけど、僕の本は大して売れていないのになんだか申し訳ない。だが、もう用意してもらったものを突き返すわけにもいかないので、有難く頂くことにした。 お礼を言って立ち上がった時、メッセージが着信した。 6時52分に東京駅に着く新幹線のチケットの写真が送られてきていた。時計を確認すると6時25分。 「あの、篠田さん。ここから東京駅って何分ぐらいでした?」 「神田ー東京間は2分ですよ。でもここから神田駅まで10分歩くでしょ?山手線のタイミングもあるんで、私なんかはここから直接東京駅まで歩いちゃうことも多いです。15分掛からないくらいですよ」 どちらもそう変わらないわけか。そして、どっちにしろ微妙な時間だ。

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