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第251話

あすなろ出版を出て、スマホでマップを確認すると歩く方が少し早いと出たので、僕は東京駅に向かって足早に歩き始めた。 間に合うかな。 東京駅は何度か乗り換えで使ったことはあるけど、すごく広いのだ。新幹線の乗り換え口までたどり着くのに何分かかるかちょっと予測できない。 そもそも僕は今まで一度も新幹線に乗ったことが無いから、乗り換え口をよく把握していない。きっと何か所かあるよな? 赤信号で止まるたびに、スマホで検索して、中央線に乗り換えるであろうことと、征治さんの乗っている号車から中央乗り換え口であろうと当たりを付けた。 乗車中は無理だろうし、僕が遅れてしまうかもしれないし、タイミングを見て電話をしよう。 乙女作戦は出来なくなったけど、予定より早く征治さんに会えることが嬉しくて気分が高揚してきた。あ、山瀬さんも一緒だろうから、あんまりデレデレしちゃわないように気を付けないと。 何とか間に合いそうだと東京駅に着いた僕は愕然とした。なんだか凄い人なのだ。 土曜日だからか、この時間帯が混むのか知らないが、ビジネス客に旅行客、外国人観光客がごった返している。 キャリーバッグや立ち止まってきょろきょろしている人達に阻まれて、真っ直ぐ歩くこともままならない。 上手く行けばサプライズになるかもなんて思っていたけれど、これは乗り換え口が合っていたとしても見つけられないかもしれないと、電話を掛けることにした。1分ほど前に新幹線は到着しているはずだ。 中央乗り換え口を視界にとらえ、そちらに向かって歩いて行きながらコールするけど、応答がない。 この喧騒の中では呼び出し音は聞こえないかも知れない。振動は、歩いていると分かりづらいのかも。何度か掛けても、コール音の後に留守電に切り替わってしまう。 その時、誰かと笑顔で話しながら改札機をくぐって来る征治さんの姿を見つけた。 ああ、よかった。 だが、征治さんの元へ駆け寄りたいのに、修学旅行かなにかの制服姿の行列に行く手を阻まれ足止めをくらってしまう。 征治さんと一緒にいるのは、山瀬さんじゃなかった。 すらりと背が高く、ウェーブのかかった茶色い髪の凄い美形の男性。 一緒に仕事をしたタレントさん?だが、垢抜けたスーツをビシッと着こなす姿はビジネスマンに見える。 二人は改札を出て少し離れた人の流れの邪魔にならないところで立ち止まり、親し気に話をしている。それぞれ手にはお土産らしき同じ紙袋。 征治さんは正統派イケメンだが、その男性はそれに加え華がある。横を通り過ぎる人達が二人を二度見をしたり、女の子連れがチラチラ視線を送りながら振り返っている。 そのうち、男性が征治さんの耳元に口を寄せなにか言うと、征治さんは顔を赤くして笑った。そして、男性は征治さんの肩をポンと叩くと立ち去った。 ぐにゅり。 なんだろう、この感覚は。 自分の胸の中から変な音が聞こえた気がした。

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