254 / 276
第254話
「美味しい日本酒もあるんだ。それを冷やしている間に、シャワーを浴びよう。夜は、鯖寿司と味噌汁でいいよね?この鯖寿司凄く大きいし。それにデザートもあるんだ」
ようやく僕も正気に戻って、ふらふらとキッチンへ向かう。
「わあ、本当だ。『いづう』? 聞いたことある・・・あ、谷崎潤一郎が好きだったっていう?」
「そうそう。江戸時代から続く老舗だって。坂本龍馬もファンだったらしいよ?」
「坂本龍馬!?歴史上の人物と同じものが食べられるの!?」
「京都は大戦の戦火を逃れているから、それこそ室町時代からある店も残ってるそうだよ」
感心しながら、篠田さんに貰った鰻の箱を開けると、見たことも無いほど立派な蒲焼きが3枚も入っていた。
一串が子供の顔ほどもある。二人で分けても立派なうな重に出来そうだ。
これは明日食べることにして冷蔵庫に入れた。
汗を流し、程よくエアコンの効いた部屋でいただいた、冷酒と鯖寿司は格別に美味しかった。(僕は少し醤油をつけさせてもらったけど)
征治さんが最後に回った関西出張の話をしてくれる。
「関西って一括りに思っちゃうけどね、大阪と神戸と京都はそれぞれ個性があってね、言葉も結構違うんだ。それに、それぞれ、地元民を称する人達にはプライドがあって、大阪とは違う、神戸とは違うって思っているのが可笑しかったな」
「そんなに近くでも言葉が違うの?」
「うん。例えば・・・こっちで『聞いてる?』と言うところを、大阪だと『聞いとんか?』神戸だと『聞いとう?』、京都は『聞いてはる?』って感じ。大阪の北と南でもだいぶ言葉が違うんだって」
「ふ~ん、面白いね」
「山瀬さんの母方のお祖母さんが京都の伏見の人なんだって。だから、色々教えてもらったよ。あと現地スタッフさんにもね。
ああ、今日早く帰れるようになったのはね、最後の京都でアポ取ってた人が都合が悪くなっちゃって、山瀬さんが自分はお祖母さんのところに顔を出しに行くからお前は先に帰っていいって」
ああ、だから山瀬さんは一緒じゃなかったんだ。
「『ひなたんが待ってるだろ?』ってさ。そうそう、この冷酒は山瀬さんから。伏見のお酒でお勧めなんだって。『ひなたんは外で飲ませるな、危なっかしいから家飲みにしとけ』っていうお節介付き」
「ぶっ・・・ひなたん?」
「なんか最近その呼び方が気に入ってるみたい。一度俺が『そんな馴れ馴れしく呼ばないでください』って言ったから、余計に言うんだろうけど」
山瀬さん、いつまでも子供の心を失わない人だな。
ともだちにシェアしよう!