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第255話

山瀬さんの事情を知って、するりと言葉が出た。 「帰りに一緒だった青い目の人は誰?」 征治さんが浮気なんてするはずがないって勿論分かっているけど。疑っていたわけじゃないんだけれど。 「ああ、花村さん?あれは今回のプロモーションを手掛けてくれた広告代理店の人。かっこいいよね」 「う・・・ん、そうだね・・・」 曖昧な返事をした僕の目を征治さんが覗き込むように身を乗り出す。 僕の感じたもやもやを見透かされてしまったような気がして、誤魔化すようにご馳走様を言って食器を片付け始めた。 「花村さんお勧めのデザートがあるんだ。抹茶は無いけど、緑茶を入れるね」 僕をソファーに座らせて、征治さんが熱い緑茶と瑞々しい色をした笹の葉で包んだお菓子をローテーブルに並べてくれる。 「うーん、黒文字は無いからフォークでいいか」 あんな、見た目はまるきり外国人なイケメンのお勧めが、こんな上品そうな和菓子だなんて、なんかあまりにも卒がないな。 でも名字が花村さんだし、日本語も自然なイントネーションだったし、ハーフなのかな? それも自然に聞けばいいのに、藪蛇になりそうで口を噤んでしまう。 隣に座った征治さんが、「なんだと思う?食べて当ててみて」とにこにこ笑っている。 結わえてあった笹の葉を開くと、中からプルンとした艶のある黒っぽいお菓子が出てきた。 「わらび餅?」 少し透明感のあるそれをフォークで切ってその上に乗せようとするとぷるるんと揺れ、その柔らかさが分かる。 舌にのせると、上品な甘さと笹の香りがして、そして何とも言えない滑らかな舌触りと弾力、喉ごしだった。凄く美味しい。 甘さに関しては僕の舌は信用ならないけど、これはわらび餅じゃなくて・・・なら一体なんだろう? くず餅でもないと言われ降参した僕に、征治さんが「レンコンと和三盆糖で作ったお菓子なんだって」と答えをくれて、驚いた。 「これがレンコン!?信じられない・・・京都の人凄い・・・」 「俺ね、京都は中学の修学旅行や出張で何度か行ったことあるけど、いつも駆け足だったせいか、それ程興味は湧かなかった。 でも、今回はお勧めスポットや美味しいものを聞いたからかもしれないけど、いつか陽向と一緒に回りたいなあって思ったよ。今まで、旅行なんてしたいと思ったことないのにさ」 「そうなの?」 「うん。でもよく考えたら、別に京都で無くてもいいんだ。 陽向にいろんなもの見せて、陽向がどんな顔するのか見たい。陽向がどんな風に感じたのか知りたい。陽向に美味しいもの食べさせて、たくさんにっこりさせたい」 並べられる甘い言葉に、頬が熱くなっていくのを感じる。 「俺はそんな事ばっかり考えながら帰って来たのに、陽向ったらさ」 不満げな口調で口をつぐまれ、びっくりする。

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