「え？何？」 僕は何か征治さんの気に障るようなことをしてしまったのだろうか。 「・・・花村さんに見とれてぽーってなってるの、ちょっと面白くなかった」 はあっ！？ 「ち、違うよ！あれはそんなんじゃなくて、確かにすごいイケメンだったけど、もやもや・・・うーん、どちらかと言うと劣等感？あの意味ありげなウィンクは宣戦布告なのかな、とか・・・」 「宣戦布告？どういうこと？」 「なんか、二人が凄く親し気に見えたし・・・」 「え、なになに？陽向は俺と花村さんの間を疑ったの？まさか、俺が出張と偽って花村さんと旅行に行ってたとでも思ったの？」 「ち、ちがう・・・」 「じゃあ、どういうこと？」 「うう・・・なんで征治さん、そんな楽しそうなの？」 気が付けばソファーに横向きに座った征治さんの膝の上に跨ぐように座らされ、上半身は腕で作った輪っかの中にホールドされていた。 「全部白状するまでここから出さない。で、陽向は俺の浮気を疑ったの？俺はそんなに信用されてなかったの？」 「違うって。ただ、なんかもやもやしただけ。あの人が芸能人みたいにカッコよくて、それが征治さんと二人で並んでるとあんまりにも絵になるっていうか。 つい僕なんか貧相なもやしみたいだしとか、こそこそ隠れながら暮らしてる僕と違って、自信がある人のスマートな立ち振る舞いだとか漠然と・・・ それに、あんなに親し気なのに、征治さんの口から聞いたこと無かったとか・・・ああもうっ、自分でもよく分からないのに説明できないよ」 「よく分からないけど、もやもやしちゃったの？」 「うん」 「ふふふ、そっか～。陽向はもやもやしちゃったのかぁ」 「だから、なんでそんなに楽しそうなの？」 「いや、だってさ・・・ふふ。花村さんと俺が親し気に見えたのなら、それはきっと秘密を共有したからだ」 「秘密？」 「うん。陽向の事、花村さんに話しちゃった」 え？ 「出張に出る前からプロモーションの打ち合わせで社に来てたから、顔と名前は知ってたよ。 で、各都市に広告代理店さんも出向く訳だけど、ある晩スタッフ達と飲んでた時、花村さんがそっと『気を付けて』って耳打ちしてくれたんだ。現地のコーディネーターの男が狙ってるって」