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第257話
「えっ。征治さんが狙われたの?」
「俺もまさかと思ったよ。今までそんな経験なかったし、相手は取引先でこっちが客だしね。
だけど花村さんは、ああいうタイプは酒が入ると見境なくなるし、男同士だと襲われた方のプライドが邪魔して女性以上に口を噤んでしまうことが多いから、それを見越した奴もいるって。
『松平さんは少なくとも男に抱かれる方ではないでしょう?俺はゲイでそっち側だからあの目付きはよく分かるんです』って言われて、驚いたんだ。
だって、彼の事を既婚者、しかも愛妻家だと思ってたから」
「そうなの?」
「あの容姿だろ?その上、さすが広告マンって感じで話術も巧みで、ユニコルノの女の子達はきゃあきゃあ言ってたんだ。
でも、左手の薬指に指輪をしてて、飲みに行きましょうとか誘われても、その指輪を見せてにっこり笑って断るんだ。それがまた、『誠実な人~』って評価をあげるんだけどさ。
で、同じホテルに泊まっていたから、お礼を兼ねてバーでご馳走したとき、指輪のことを聞いてみたんだ。
そうしたら、一生を誓い合った男性のパートナーがいて揃いの指輪をしてるって。相手は幼馴染で子供の頃からの恋を実らせたんですよって言われて、一気に親近感が湧いちゃったんだよね。
それで、つい陽向の事話しちゃった。勝手なことしてごめん」
「ううん。ふうん、僕も一気に親近感湧いちゃったなあ。あ・・・東京駅でそれが僕だって分かったのかな?それで、あのウィンクだったのかな?」
「ふふ、宣戦布告ではなかったと思うよ」
なんか猛烈に恥ずかしい。
「それで?もし、宣戦布告だったら、陽向は受けて立ってくれたの?戦ってくれたの?」
明らかにからかいを含んだ調子で僕の顔を覗き込んでくるから、腕を突っ張って征治さんの腕の輪っかから逃れようとするけど、征治さんの方が力が強くてどんどん輪っかが狭められしまう。
結局、ぴったり体が引っ付くように抱きしめられ、「ねえ、どうなの?」と迫られ観念した。
「戦うよ。前の僕なら諦めてたかも知れないけど、もう欲しいものは欲しいと言うって決めたんだ。征治さんを誰にも取られたくない」
急に真顔になったかと思ったら、征治さんはううーっと呻りだし、突然僕を抱いたまま立ち上がった。
「うわっ、どうしたの!?」
驚いて降りようとするが「ちゃんと首に掴まって。足も絡めて」と言われてしまう。
僕が掴まったことを確認すると、征治さんは僕を抱いたままずんずん進んで、ベッドルームに続く扉に手を掛けた。
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