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<第21章> 第258話
山瀬さんめ、何が「外飲みは危ないから家飲みにしておけ」だ。
こっちは益々大変じゃないか。
ただでさえ陽向欠乏症に陥っていて暴走しそうだったのに、陽向はいきなり抱きついてくるし。
喜ぶかなと買って帰った鯖寿司をもぐもぐしながら「谷崎潤一郎先生と同じものを美味しいって食べられるって、幸せだよねえ」と感動している陽向はどうしようもなく可愛いし。
飲ませ過ぎは注意だけど、ほんのり色づいた陽向は見たいと勧めた冷酒は、あっという間に陽向の全身を桜色に染めてしまって、もう視線が外せないじゃないか。
おかげで鯖寿司や冷酒も、もうゆっくり味わうどころじゃなくなって、どうしてくれようって感じだ。
その上にだ。
俺と花村さんが親し気だったから、もやもやした、なんて陽向が言うものだから。しかも本人はそのもやもやの正体がよく分かっていないという・・・
ああもうっ、と叫びたいのはこっちだ。
とどめは、宣戦布告なら戦うというセリフ。
陽向は大人しいが決して弱い人間ではない。ただ穏やかな性格から、争いごとが苦手で、自分が苦痛をこらえ、耐える方を選んでしまう。
そんな陽向が「誰にも取られたくないから、戦う」と言ったのが、どれだけ俺を喜ばせたのか、きっと本人は分かっていないだろう。
もう愛しすぎて、限界だ。
実を言うと、先程シャワーを浴びたときに、一度出している。
だって、仕方がないじゃないか。
あんな切羽詰まった風に陽向からぎゅうぎゅう抱きつかれて、「凄く会いたかった」と上気した顔とキスで濡れた唇で言われたら・・・よくあの場は踏みとどまったと自分を褒めてやりたいくらいだ。
風呂場ではあのキスを思い出しただけで、あっという間に昇りつめてしまった。
だが、抱き上げた俺が寝室へ向かっていると理解した陽向が、一瞬体を固くした後、頬を摺り寄せてきたとき、そうしておいて正解だったと思った。
今夜、俺達がどこまで進めるか分からない。だが、二人の初めては大切にしたかった。欲に任せて暴走だけはしたくなかった。
ベッドにそっと陽向を降ろし、サイドランプを点ける。
陽向の顔が赤く見えるのは、ランプの色のせいだけではないだろう。
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