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第262話

「やめて!イヤだ、イヤだ!」 手の動きをとめ、陽向の様子を窺うと、きつく目を閉じ体中に力が入っている。子供のような口ぶりは、以前夢を見て泣いていたあの時と同じだと気が付いた。 「イヤだ、感じたくない!」 陽向は身を捩って、征治の手から逃れようとする。 取り敢えず陽向のものから手は離したが、どうするべきなのか。 今の陽向の状況は、久し振りによみがえった感覚がPTSDのフラッシュバックを引き起こしたに違いなかった。 それは分かっても、その対応策の正解が分からない。もっと真剣にストレス障害について知識を深めておくべきだったが、今それを言っても仕方がない。 ストレスに繋がるセックス自体を今すぐ止めるべきか。だが、それではまた陽向が俺に負い目を感じて落ち込んでしまうに違いない。 もしかすると『感じたくない』という言葉がヒントなのではないか? 陽向は快感を覚えることに強い抵抗があるのかもしれない。 男の体は刺激に正直で、大方の男はそれこそ初めて会う言葉の通じない女性と性交を持っても快感は得られる。 男娼やペットにされていたころ、望まない行為に反応してしまう自分の体を陽向が酷く嫌悪し否定していたとしたら・・・。 賭けになるかもしれない。 でも陽向、俺を信じてほしい。 目をギュッとつむり、体を緊張でガタガタ震わせながら丸くなっている陽向に寄り添い、耳元に口を寄せ、落ち着いた声でゆっくり呼びかける。 「陽向、陽向。大丈夫だよ」 陽向は答えず、はっはっと短く早い呼吸を繰り返している。このままでは過呼吸を起こすかもしれない。 「陽向、俺が分かる?征治だよ。まず呼吸を落ち着けようね。背中に触るよ?」 震える体をそっと抱き込み、背中をゆっくり撫でてやる。 「大丈夫だよ」と繰り返しながら暫くそうしていると、強張っていた体の緊張が緩み、呼吸も落ち着いてきた。 「ねえ陽向、目を開けて。こっちを見て」 陽向の目尻に優しくキスを繰り返す。 固く閉じられていた目がゆっくりと開き、やがてゆらゆらとさまよっていた大きな瞳の焦点が征治に合った。 途端に残っていた体の強張りが取れ、不安気な表情がふっと緩んだ。

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