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<第22章>   第265話

体内時計は、もういつもの起床時間をとうに過ぎていると知らせているのに、眠くて仕方がない。 寝返りを打とうとして、体がなんだか重だるいというか、全身に軽い筋肉痛のような強張りを感じ、風邪でも引いたかなとぼんやり考えたところで、唐突に昨夜の記憶が蘇った。 慌てて隣を見るが、征治さんの姿はない。 がばっと半身を引き起こす。 改めて、昨夜の記憶を辿り、さあーっと血の気が引く様な感覚に囚われ、ベッドの上で頭を抱えこんだ。 途中までは全部覚えていた。 征治さんが優しく僕を抱いてくれようとしていたこと。 僕もそれが凄く嬉しかったこと。 甘いキス、熱いキス、優しく触れられる手に、感じたことのない喜びと高揚感を得た。そして、信じられないことにずっと何年も沈黙を続けていた僕のものが反応して・・・ 僕は訳の分からないパニックを起こした。 征治さんを拒絶し、怯えた。 僕をこれ以上ないほど大切に扱ってくれている征治さんを、あろうことか、かつて僕を苦しめた奴らと混同した。 それだけでもどれほど征治さんを傷付けたかと思うのに・・・ 怯える僕を宥め、根気よくもう一度快感を引き出してくれた征治さんの手の中で、僕は達した。 無理やり反応させられたのではなく、純粋に快感を感じたのは一体いつ以来なのかも分からない程の久し振りだった。 あまりの久し振りの感覚に、溜まっていく熱をどうしていいのか持て余し、僕の中に残る恐怖がこの快感をそのまま享受していいのかと混乱させ、一方で耳元でずっと声を掛け続けてくれる征治さんの存在に安堵した。 そして征治さんに身を委ねることへの恥じらいと喜び。慈愛に満ちた瞳の中に時折現れる艶めきに、僕の中にゾクリと這い上がる正体不明のもの。 それらが渦巻く、正に混沌の中で僕は絶頂を迎えた。 が、・・・その先の記憶がブツリと途切れてしまっている。 まさか・・・あの直後に寝落ちした・・・? 征治さんと体を繋げていないのは自分の体の感覚で明白だった。この軽い強張りは単に酷い緊張状態で筋肉に力が入りすぎていたせいだろう。 全身にかいていた汗も、僕が吐き出したものも何の名残りもなく肌はさらりとしていて、何より自分で着た記憶のないパジャマ代わりのスウェットをちゃんと身に着けている。 「うああ・・・最低すぎる・・・」 再び頭を抱え込む。 何より、面倒くさすぎるだろう、僕。 今まで、征治さんに散々気を遣わせ、我慢をさせてしまっていた自覚がある。やっと、だったはずなのに・・・ もういい大人なのに情けない。 こんなに手が掛かって病んでる僕に、征治さんもさすがにうんざりしたんじゃないだろうか? だけど、いつまでもここで一人で項垂れていても仕方がない。 まずは顔を洗ってしゃっきりしよう。 なんとか自分を奮い立たせ、洗面所の鏡の前に立つと瞼と唇が少し腫れぼったかった。 瞼は・・・泣いたっけ? 唇は・・・昨日いっぱいキスをしたから? いつもより赤く感じる唇に触れると、征治さんの熱い唇を思い出し、頬まで赤くなった。

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